ミュージカル

[エッセイ 112]
ミュージカル

 「ニューヨークのマジェスティック劇場で公演中のミュージカル『オペラ座の怪人』が9日、初演(1988年)から数えて7486回目の上演を行い、2000年9月に閉幕した『キャッツ』を抜いてブロードウェー最多公演記録を更新した。

 大掛かりな舞台装置と豪華な衣装、『ミュージック・オブ・ザ・ナイト』など多くの名曲で根強い人気を呼び、今月26日にはブロードウェーでの初演から19年目を迎える。延べ観客数は約千百万人で、興行収入は総額6億ドル。

 86年初演のロンドンをはじめ、世界各地でも公演が行われており、これまでに8千万人が見たとされる」。(1月9日、ニューヨーク発、共同通信

 この「オペラ座の怪人」、日本では劇団四季によって1988年の初演以来、全国各地で断続的に続けられている。私は、その2年目の舞台を日生劇場で鑑賞することができた。幻想的な舞台展開と荘厳なパイプオルガンの響きに、身震いするような大きな感動を覚えた。その翌年、NHK紅白歌合戦市村正親がその主題歌を歌うのを観て、感激を新たにしたことはいうまでもない。

 ミュージカルとは単に音楽劇のことをいうのだろうか。オペラとはどう違うのだろう。小学館の「カタカナ語の辞典」に明快な定義がなされていた。

 ミュージカルとは、「現代のアメリカで発達した音楽劇。ミュージカルコメディーやミュージカルプレーにレビュー、ショー、スペクタルなどの要素を盛って、主に大舞台で演じられるのが特色」。ミュージカルの音楽はポピュラーの領域であるが、音楽そのものが劇と役者、そしてその情景に強く結びついて一体となっている。

 オペラとは、「歌劇。17世紀初頭からイタリアに発展した。独唱、重唱、合唱にオーケストラの前奏曲、間奏曲をおりまぜた音楽的要素に、舞台美術、演技、舞踊などを合わせた総合芸術」。オペラはクラシック音楽の領域に属し、際立った特徴はベルカント唱法という独特の発声唱法にある。その特性から、踊りや筋運びより歌が優先することはいうまでもない。

 ニューヨークのブロードウェーを中心に発展してきたミュージカルは、1980年代になるとイギリス生まれのそれに世界を席巻されるようになった。「CATS」、「レ・ミゼラブル」、「オペラ座の怪人」、これらはその代表的なものである。

 近年、アメリカのミュージカルが息を吹き返し、いまはニューヨークのブロードウェーとロンドンのウエストエンドがミュージカルの双璧となった。

 それにしても、毎回毎回あれだけのヒト、モノ、カネを注ぎ込むのはいかがなものか。しかし、その見方は凡人の低次元の批判にすぎない。大いなる無駄使いこそ、安らぎの源泉であり偉大な芸術の基盤となるはずである。
(2006年1月14日)