[エッセイ 367]
フランス製ミュージカル
フランス製のミュージカルを、新装なった渋谷ヒカリエで観た。題名は「ノートルダム・ド・パリ」、ヴィクトル・ユーゴの同名の小説が元になっている。1998年以来世界十数カ国で上演されてきたが日本へは初上陸だそうだ。
15世紀末のフランス。ジプシーの一団がパリにやってきた。その中には、美しい娘エスメラルダもいた。しかし、ノートルダム大聖堂の司教フロロは彼らを嫌い、近衛隊長のフェビュスに街から追い出すよう命じる。一方、街では“愚者の祭り”が行われていた。年に一度、この日だけは最も醜い者が王になれるという。選ばれたのは、大聖堂の鐘つき男カジモドだった。
物語は、ジプシーの美しい娘エスメラルダをめぐって、3人の男たちが複雑に絡み合いながらパリの街を舞台に展開する。エスメラルダによこしまな想いを抱く司教のフロロ、彼女にちょっかいを出したい近衛隊長のフェビュス、そして彼女に一途な恋心を募らせる鐘つき男のカジモド。
近衛隊長のフェビュスは、エスメラルダと密会中何者かに刺される。エスメラルダはフェビュス殺しの罪を着せられ投獄される。実は、彼を刺したのは司教のフロロで、フェビュスは生きていた。終幕、フロロはフェビュスにエスメラルダを処刑させる。そのフロロは、鐘つき男のカジモドによって鐘楼から突き落とされる。カジモドは、エスメラルダの亡骸を抱きしめ永遠の愛を誓う。
フランスのミュージカルなのに、使われている言葉は英語だった。フランスから来たとはいえ、どうせ外国語で上演するなら日本語でやってもらってもいいのではないか。そうは思ったが、世界各国を公演して回るのであればやはり英語ということになるのだろうか。代わりにステージ両脇に日本語の字幕が出て、観客はそれを見ながら観賞するようになっていた。
舞台づくりはいたってシンプルだった。舞台装置はもとより、色調も照明も、華やかさはぎりぎりまで抑えられていた。しかし、それが逆にミュージカル本来の歌と踊りを引き立てることになった。その地味な演出の中に、アクロバット的な演技が随所にちりばめられていた。体操の床運動や吊り輪の要素がたくさんとりいれられ、躍動感あふれる構成になっていた。歌は、だれもみな声量豊かで、感動を覚えるに十分な技巧を備えていた。
それにしても、フランス製のミュージカルとはめずらしい。フランスでは、歌は歌、踊りは踊りとはっきり分かれており、両者を融合させたミュージカルは国柄になじまないだろうと思っていたがどうやら認識不足だったようだ。ミュージカルといえばロンドンかニューヨークという固定概念を吹き飛ばし、こうして他の地域でも良質なミュージカルが育っている。
(2013年3月19日)