名前もわからないサクラの開花


[エッセイ 679]

名前もわからないサクラの開花

 

 あと5日もすれば彼岸の中日を迎える。春らしい穏やかな日射しに誘われて近所を散策していると、サクラと思しき白い花が目についた。雑木の生い茂る急な傾斜地の裾野にあたる所である。その先は平坦な住宅地へと続いている。桜の咲いている草むらに足を踏み入れると、ややぬかるんだ感じがする。傾斜地からにじみ出た水が、排水しきれない状態になっているのかもしれない。

 

 その桜の木には根元から切られた跡があり、いまある幹はその切り株の脇から伸びたものだった。接ぎ木といってもおかしくない格好である。湿地のためか、細く痩せていて、枝やその先についた花の数もまたまばらである。花の色は白で小さくはないが、地味でなんとなく精彩を欠いている。あのピンクのカワヅザクラに馴染んだ後だけに、なにか拍子抜けした気持ちにさえなってしまう。

 

 何という種類なのだろ?名前だけでも知りたいなあ。そう思って、帰宅後にインターネットを開いてみた。日本花の会の「桜図鑑」というページが目にとまった。たくさんの種類の桜が写真付きで掲載されていた。いま撮ってきた写真と見比べながら検索してみたが、“これだ!”というものは探り当てることができなかった。なんせ、401種類もの写真が掲載されているのだから・・。

 

 さいわい、名前を特定するための必要事項を入力すると、それを検索できる仕組みになっていた。さっそく6つの項目について求められた事項を入力してみた。開花時期は3月上旬又は中旬、花の色は白、その形は一重、花の大きさは中輪、樹形は円柱形または箒状、そして樹高は2~3mと入力した。検索結果はいずれの場合も“該当する桜が見つかりませんでした”と出た。

 

 ちなみに、特定のための分類項目は次の通りだった。①開花期=3月上旬、3月中旬、3月下旬、4月上旬、それと秋の5通り、②花色=白、微淡紅、淡紅、紅、濃紅、紫紅、黄緑、そして緑の8色、③花形=一重、半八重、一重で半八重、八重、菊花、そして菊花で段咲、④花の大きさ=大輪、中輪、そして小輪、⑤樹形=円柱形、箒状、盃状、広卵状、傘状、そして枝垂状、⑥樹高=2~3m、3~8m、そして8m以上だった。今後、桜を研究しようというときに役立ちそうだ。

 

 特定するにあたっての、基本となる品種も掲載されていた。エドヒガン、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、ミヤマザクラ、カンザクラ、そしてシナミザクラといったところである。現世のサクラは、これらから枝分かれしてきたようだ。

 

 それにしても、今日見物してきたサクラは少々地味すぎる。もう少し艶やかな色合いも欲しいと考え、帰り道にシバザクラ(芝桜)の写真もたくさん撮ってきた。春は逆に、そんな贅沢のいえる花に満ちたシーズンであるともいえよう。

                      (2024年3月15日 藤原吉弘)