立秋

[エッセイ 664]

立秋

 

 毎日毎日うだるような暑さが続いている。今年は、いつ梅雨に入ったのか、そしてそれがいつ明けたのか、それさえわからないまま真夏の猛暑に突入していった。6月、7月の通算61日間では、まがりなりにも傘マークのついていた日は22日間、そのうち終日本格的に雨の降った日は5日間だけだった。空梅雨どころか、梅雨はなかったといった方が当たっているのではなかろうか。

 

 そんな暑さにうんざりしているとき耳に入ってきたのが「立秋」という言葉である。これで暑さはピークを過ぎるということか、あるいは助け船がやってきたぞということかもしれない。とにかくその言葉を聞いただけで、“ほっとした”、“助かった”という気持ちになってくる。これからは、暑さは下り坂に入り、少しずつ秋の気配が漂ってくるはずである。

 

 立秋とは、二十四節気の一つの区切りである。今年については、今日8月8日と、この日から処暑の前日に当たる8月22日までの15日間のことを指す。この間の最大のイベントは月遅れのお盆である。ご先祖さまを、13日に自宅にお迎えして3日間ご滞在いただき、4日後の16日にあの世へとお送りする。この間、子孫たちの生活ぶりもじっくりと見ていただこうというものである。

 

 季節の変化は、そのお盆のお供え物などからも感じられる。甘いものでは、モモやナシ、スイカといった果物が幅を利かせるようになる。野菜では、ナス、キュウリ、カボチャ、そしてトウモロコシなどがその中心となる。魚介類については状況が激変し、季節の変化が感じられにくくなっているが、かつての中心はタコ、カンパチ、タチウオ、アワビそれにコンブなどだったという。

 

 生活習慣においても、季節の変わり目をはっきりさせるため、暑中見舞という呼び名はこの日から「残暑見舞」に変えられる。もしお天気が崩れ長雨になったとすると、わざわざ「秋雨」という呼称を使い、季節の変化を強調する。そうした変化は、まわりの木々から聞こえてくるセミの声が、いつの間にかヒグラシに変わっていることに気づかされるはずである。

 

 私たちが暑さにうんざりしているときに現われた立秋という救いの神だが、神さまはただ手ぶらでやってこられるわけではないようだ。台風というとんでもない暴れ者を従えておられる。今年も、立秋を前にやってきた台風6号は、南西諸島に長期滞在を決め込み、なお西日本に被害を与え続けようとしている。

 

 ところで、スーパーのチラシには、「8月8日はタコの日」として、タコを沢山食べようと宣伝している。なんでも八本足の8に由来するそうだ。7月29日の肉の日といい、ちょっとやり過ぎのきらいも無いではないが、タコでも食べて残暑を乗り切るのも一興かもしれない。

                       (2023年8月8日 藤原吉弘)