処暑

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[エッセイ 601]

処暑

 

 今日、8月23日とこれからの半月間は二十四節気でいう「処暑」である。いわば、“暑さもようやくおさまるころ”である。この処暑という熟語は、暑さが和らぐという意味で、暑さから解放されやっと一息つける時節になったということのようだ。ところが、実際には暑さはまだまだ続くようだ。たしかに向こう一週間は、最高気温が30度をはるかに超える日が続くと予報されている。

 

 理屈から言えば、処暑は夏というより秋に近い。夏の理論的な頂点である夏至と冬のそれである冬至を並べてみると、処暑はすでに立秋を越え半月分も冬至の方に近づいている。それでも、現実には「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるように、暑さから逃れるにはあと1ヵ月も待たなければならない。地球がいかに大きいか、この1ヵ月半のタイムラグがそれを実感として教えてくれている。

 

 ところで、1年を24分割した二十四節気でいうこの処暑とは、どのような季節をいうのだろう。ものの本には次のように説明されている。厳しい暑さの峠を越えて、朝夕は涼風が吹き始める。上空は、夏から秋に移るころの暑気と冷気が行き交う「行合の空」と呼ばれる情景が現われる。入道雲が湧き上がっているところに、鰯雲や巻き雲が並んで姿を見せるといったシーンである。

 

 しかし、そんなロマンチックなことばかりではない。台風シーズンの真っただ中に突入したのである。あの「二百十日」は8月31日がそれに当たる。それに加えて、翌9月1日は大災害にもっとも気をつけなければならないという、関東大震災に由来する「防災の日」でもある。一方、この日は「八尾の風の盆」にもあたり、例年なら富山市の郊外が大勢の人で賑わう盆踊りの日でもある。

 

 風の盆といえば、石川さゆりさんのヒット曲「風の盆恋歌」が頭に浮かぶ。高橋治の同名の小説をもとにした悲恋ドラマの歌謡曲である。実際の盆踊りも哀調を帯びた胡弓の調べに乗って踊られるが、本来のねらいは台風を鎮めるために始められた行事で、それほどロマンチックなものではないはずだ。

 

 この時期は、そのような物騒な話ばかりではない。ちょうど、秋の七草が見ごろを迎えるのだ。その花とは、萩(ハギ)、尾花(ススキ)、桔梗(キキョウ)、撫子(ナデシコ)、葛(クズ)、女郎花(オミナエシ)、そして藤袴(フジバカマ)である。この七草には入っていないが、晩夏から咲き続けている酔芙蓉も、風の盆恋歌を盛り上げる重要な小道具として登場する。

 

 そして、この時期私たちの食欲を満たしてくれるのが、初秋の食材たちである。秋刀魚(サンマ)、茄子(ナス)、葡萄(ブドウ)、そして梨(ナシ)などである。しかし、サンマは近年不漁続きで庶民からは遠ざかるばかりだ。せめて秋ナスくらいは、お嫁さんと仲よく味わって残暑を乗り切りたいものである。

                      (2021年8月23日 藤原吉弘)