ヴァイオリン協奏曲

[エッセイ 648]

ヴァイオリン協奏曲

 

 昨、日曜日の夜、大河ドラマを見たあと、いつものように風呂を使った。ゆったりとした気分で夜具を整えながら、テレビをNHKクラシック音楽館にあわせた。と、いきなり一番ひいきにしている曲が流れ出した。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲である。湯冷めをするのも忘れて聞き入ってしまった。その曲がどれくらいお気に入りだったかは、このエッセーシリーズの初期、もう18年も前に書いたことで理解してもらえると思う。(エッセー90、2005,3,5)

 

 ・・「私は、いろいろなジャンルのクラシック音楽を選り好みしないで聴く。場所や時間帯あるいは気分にあわせて、バック・グランド・ミュージック的に聴くためである。聞き流しといっても過言ではあるまい。ただ、手持ちのCDレコードを整理してみると、ヴァイオリン協奏曲が意外に多い。それらにロマンチックな作風が多いためかもしれない。そのメロディの美しさで、私の好みはメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調、作品64」に収斂される」。・・

 

 この曲がどれくらい素晴らしいか、このページで書き表わすのは難しいので、ここは専門家に語ってもらうことにした。手持ちの書籍は少々古いが了承願いたい。・・「一体これまでに何人のヴァイオリニストの手で演奏されてきたことだろう。見当もつかない。難曲ではないし、第一ポピュラリティがある。それに始めから終わりまで過不足なく、実に見事に書けている。ヴァイオリンの名手たちにも、古今のヴァイオリン協奏曲数多くある中で、この曲をベストとする人が少なくない。」・・諸井 誠著「これがクラシックだ」1977,8,10刊行

 

 ・・「かつてベートーヴェンブラームスの曲とともに、『3大ヴァイオリン協奏曲』と謳われた不朽の名曲である。早書きで有名だったメンデルスゾーンにしては、この曲にかぎり6年という年月をかけているのは注目される。・・(中略)・・曲は古典的な3楽章構成だが、各楽章は切れ目なく続けて演奏される。また第1楽章のカデンツァが再現部の前に現われ、しかも楽譜にきっちりと書かれている点、そして第3楽章に序奏がついていることなど、当時としては革新的な手法がいろいろ使われているのが注目される。親しみやすい中にも、こうした工夫がなされているのは、やはりプロの書いた音楽というべきだろう」。・・出谷 啓著「クラシック名曲・名盤」1993,8,30刊行

 

 今回放送されたのは、演奏:NHK交響楽団、指揮:ユダヤアメリカ人のレナード・スラットキン、そしてヴァイオリン演奏は台湾出身のレイ・チェンだった。とろけるような24分間の名演だった。さいわい風邪も引かなくてすんだ。

                         (2023年1月23日 藤原吉弘)