キジバトの営巣放棄

[エッセイ 630]

キジバトの営巣放棄

 

 このあたりに棲むハトは、たいていがヤマバトとも呼ばれるキジバトである。毎日のように餌を求めてわが家の庭にもやってくる。そのキジバトが、庭のヤマモモの木に巣を作り始めた。この木はわが家で一番大きく、もっとも葉っぱが繁っている。野鳥が巣作りをするにはもっとも安全な場所といえよう。あえて難点を上げるとしたら、もっとも道路側にあるということくらいである。

 

 そのヤマモモの木のてっぺん近く、枝と枝の間がハトの出入り口になっている。その奥が、新しく作られる巣の工事現場のようだ。小さな木の枝をくわえたハトが、どこからか飛んできてその入り口から入っていく。そのハトは、数分も経たないうちに小枝を求めてまたどこかへと飛び去っていく。

 

 わが家の庭に鳥が営巣するのは4例目である。かつては、メジロハナミズキの木に2回、キジバトがウメの木に1回巣作りをしている。メジロが最初にハナミズキに営巣したときは、雛は孵ったが子育て中に大きなヘビにやられてしまった。そしてもう一回は、巣作りの途中で止めてしまった。一方の、ウメの木に巣を作ったキジバトの場合は、抱卵中に野良猫に襲われてしまった。

 

 ところで、そのキジバトは、普段どのように営巣するのだろう。まずは、オスが適当な場所を探しまわる。気に入ったところが見つかるとメスを呼び下見をさせる。2羽とも気に入るとオスが巣作りを始める。巣の作りはきわめて雑である。木の枝と枝の間に小枝を差し渡しただけ、ハトが上に乗っても落ちない程度の簡単なものである。下から見上げるとハトの腹や卵が透けて見えるほどだ。

 

 キジバトは、一度に2個ずつ、年に5~8回も卵を生む。抱卵は夫婦交替で、昼間はオス、夜間はメスが担当する。およそ15~16日間で孵り、15日間前後で巣立っていく。一夫一婦制だが一回かぎりの関係ということも多いらしい。オスは、気に入った場所は繰り返し抱卵に使うことがあるという。

 

 今回、わが家の庭で始まった巣作りは、途中で止めてしまったように思われる。なにか危険なことでもあったのか。あるいはメスの気が変ってしまったのか。とにかく、ヤマモモの木への、ハトの出入りはぱたっと止まってしまった。枝の中はもちろん、木の周辺からもその気配がまったく感じられなくなった。住人としては、今回も鳥に敬遠されてしまったことを大変残念に思っている。

 

 ところが、ネットを検索していたら、ハトの巣作りはフン害を伴うなどきわめて不衛生だと書かれていた。ご近所に対しても大変な迷惑となる。巣は絶対に作らせてはだめだという警告の記事だった。一旦作られてしまったら、一般市民は手を出すことができない。なにしろ、野生動物は法律でしっかりと守られているのだ。どうやら、営巣放棄されたことの方がはるかに正解だったようだ。

                          (2022年6月3日 藤原吉弘)