ナス

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f:id:yf-fujiwara:20210904135633j:plain[エッセイ 602]

ナス

 

 今が旬の秋ナスにはこんな諺がある。「秋茄子(あきなすび)嫁に食わすな」。①秋茄子はおいしいので、しゅうとめが嫁に食べさせたがらないという意。②食べると体を冷やすので、また秋茄子は種が少ないので子供ができないという縁起をかついで、嫁に食べさせなかったともいう。・・「ことわざの辞典」(三省堂)。

 

 一方、こんな文章もある。「せめて秋ナスくらいは、お嫁さんと仲よく味わって残暑を乗り切りたいものである」。これは、私自身が勝手に書いたもので、前号:エッセー601「処暑」の最後のくだりである。少々野暮ったいが、エッセーの「オチ」をこの諺の①の意味に引っかけたものである。

 

 ところで、その秋ナスとはどんなものなのだろう。春に植えたナスの茎はどんどん成長してたくさんの実をつける。しかし、その一方で枝も混み合ってくる。そこで、更新剪定をしてやると、新しい枝が出てきて秋にかけてまた立派な実をつけるようになる。それが秋ナスで、味もいっそうおいしくなるという。

 

 この更新剪定というのは、スタートのところにヒントがありそうだ。ナスは、熱帯地方では多年草だが、温帯地方では一年草で毎春あらたなスタートを切る。つまり、温かくなって種を撒くわけだが、接ぎ木苗という方法もあるそうだ。そして、この方が耐病性に優れており育てやすいという。それは、そのまま味にも通じているということではなかろうか。

 

 ナスの原産はインドで、中国を経て奈良時代に日本にやってきた。耐寒性は弱く、耐暑性はやや強いようで、生育温度は23~28度が適温だそうだ。初夢に、「一富士、二鷹、三茄子」というのがあるが、江戸時代、正月に初物を手に入れようすれば、1個1両もしたという。ビニールハウスのない時代、油紙障子に馬糞などの発酵材で適正温度を確保するのは大変なことだったようだ。

 

 ナスは、6月ごろから収穫期に入る夏野菜である。お盆には、キュウリとともに精霊牛馬という重要な役割も担うことにもなる。キュウリはご先祖様が現世に戻られるとき乗られる足の速い馬に、ナスはあの世に帰られるとき使われる足の遅い牛に見立てられている。現世に来るときはなるべく早く、あの世に帰られるときはゆっくりとという、今を生きるものの気持ちを反映したものだ。

 

 それにしても、ナスは焼く、煮る、揚げるなど、どのように調理しても美味しくいただくことができる。とくに、油との相性はすばらしく、和洋いずれの料理にも格別の力を発揮する。ナスは、夏ばての予防、生活習慣病の予防と改善、がんの予防と抑制、そして炎症や痛みの抑制に大きな効果があるという。

 

 子供の頃、母の手作りの辛子漬けをよく食べさせてもらった。そしていまは、ナス入りミートソースの冷凍パスタでその魅力を堪能させてもらっている。ナス、とくに秋ナスとはこれからも深いお付き合いをさせてもらう積もりである。

                       (2021年9月4日 藤原吉弘)