老人月間

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[エッセイ 565]

老人月間

 

 9月は老人月間といってもよさそうだ。9月15日は「老人の日」、そしてその日からの一週間は「老人週間」である。さらに、第3月曜日である9月21日は「敬老の日」となっている。

 

 国の祝日である敬老の日は、1966年の制定当時は9月15日だった。ところが、連休を増やす名目で、2003年からは9月の第3月曜日に移された。これに先立つ2001年には、老人福祉法によって、9月15日を老人の日に、そしてその一週間を老人週間と定められた。もともと、敬老の日は9月15日だったので、結果的には追い出された格好である。

 

 敬老の日の起源は、1947年9月15日に行われた兵庫県多可郡野間谷村 の敬老会だといわれている。しかし、敬老という概念はなにもこのとき始まったものではない。ここで、1300年前のあの有名な伝説を取り上げてみよう。

 

 昔々、美濃の国の山里に大変親孝行な若者がいた。たいそう貧乏だったが、年老いた父親のために一生懸命働いて、少しでも長生きしてもらおうと頑張っていた。そして、たまには父の好きな酒くらい飲ませてあげたいと思っていた。しかし、貧乏のために酒はめったに手に入れることはできなかった。

 

 ある日、息子はたきぎ取りに山奥へと分け入った。ところが、斜面で足を滑らせ、谷底へと転落してしまった。しばらく気を失っていたが、のどが渇いて目を覚ました。すると、岩陰から水の音が聞こえてきた。そこには滝が流れ落ちていた。手で水をすくって飲んでみると、かぐわしい酒の味がした。

 

 息子は、その酒を瓢箪に入れて持ち帰り父親に飲ませた。父は、おまえの親孝行に神さまがご褒美をくれたのだろうとたいそう喜んでくれたという。

 

 この話の舞台となった滝は、岐阜県養老郡養老町に実在する。その名も養老の滝、巾4m、高さ32mの立派な滝である。この地を行幸された元正(げんしょう)天皇は、その話を聞いてたいそう感心された。さっそく、その若者にたくさんのご褒美を下されるとともに、元号まで「霊亀」から「養老」に変えられた。西暦717年、霊亀3年11月17日施行で、この部分は史実である。

 

 たいていの人は、子供のころから親孝行について教えられ、自らも親の恩を感じながら成長してきた。長じたあかつきには、孝行の一つもしたいと思っているはずである。しかし、思っていてもいまさら照れくさくてそんなことはできないと思っている人も多いはずである。一方、孝行をしたいころには親はなしで、それを果たせないまま悔恨の念を抱いているひとも少なからずいるはずである。

 

 老人の日敬老の日は、そうした人たちにチャンスを与えようと始められたものではなかろうか。その一方で、年を重ね、孝行を受ける立場になった人も多いだろう。この際、両者ともにこの機会を大いに利用すればいい。

                       (2020年9月1日 藤原吉弘)