二代目のシクラメン

f:id:yf-fujiwara:20200324143725j:plain

f:id:yf-fujiwara:20200324143801j:plain


[エッセイ 550]
二代目のシクラメン

 一旦枯れてしまった古いシクラメンの鉢から、再びみずみずしい葉っぱが芽吹き、ついには花が咲きはじめた。最初は、葉っぱの陰に赤い蕾がチラチラ見える程度だった。それが、この半月ばかりの間に、緑の葉っぱの上に赤い花が顔を出し、やがて大きなかたまりとなってきた。その賑やかさは、鉢植えで売られているものに勝るとも劣らないところまで進化している。


 ただ、花を支える茎は、市販のものよりかなり短いようだ。そのため、花は葉っぱのすぐ上にかたまっている。茎の長いものと比べると、ややスマートさに欠けるといっていい。店頭に並ぶ鉢植えの茎が白鳥だとすると、わが家に咲いた二代目のそれはアヒルくらいの長さである。ただ、花そのものの華やかさにおいては、いずこの花にも劣らない立派な容姿である。


 実は、シクラメンは年末が近づくと新しい鉢植えを買うものだと思い込んでいた。それが、一昨年暮れに買ったものを外に放置しておいたら、たまたまうまく咲いたということである。そこは、わが家でもっとも目障りにならない場所で、軒下の、陽も、雨も、そして風さえも当たらない、いわば秘密の場所である。


 そこが、いくつもの空いた鉢でいっぱいになったので、古いシクラメンの鉢はそこから少しはみ出した格好になった。そこは、軒下から少し外れており、雨も当たるところだった。昨年の秋頃だっただろうか、その鉢から芽が出てそれがだんだん伸びてきた。年が改まったあたりから葉っぱが立派になってきた。葉っぱだけ観賞するのも悪くないと思い、陽当たりのいい場所に移しておいたのだ。


 実は、シクラメン多年草であることは、まったく知らなかったわけではない。事実、ご近所の庭などで地面に沢山生えているのをよく見かける。馴染みの場所なので、毎年、同じところに同じ花を咲かせることも分かっていた。ただ、いずれも花が小さいのが気になるところだ。野生に戻ったためにそうなったのか、最初からそんな種類なのか、いまもってよく分かってはいない。


 いままでは、年を越させてもなかなかうまく育たなかったこともあり、素人の手には負えないものだと思い込んでいた。そして、毎年新しい鉢を買うのを、年末の恒例行事と決めつけ、それを楽しみにすらしてきた。いま思い起こすと、こんな習慣はあの「シクラメンのかほり」という歌が大流行した頃からだった。年末に、赤い鉢植えの花を飾るのがハイカラだとさえ思っていたようだ。


 今回、実にいい経験をさせてもらった。これを機会に、シクラメンのことをもっと勉強して、自身でも苗から育てられるようにしたいと思う。一朝一夕にはいかないだろうが、自分で育てたシクラメンが、“醜いアヒルから美しい白鳥”へと変身するよう頑張ってみたいものだ。
                                        (2020年3月24日 藤原吉弘)

 

[写真]上:二代目のシクラメン

    下:昨年末に買った市販のシクラメン