床の補強

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[エッセイ 548]
床の補強
 
 ここ数年、体のあちこちにガタがきて、部分的なケアを繰り返すようになった。さいわい、大病には至っていないので、日常生活は平常どおり続けられている。一方、住居も住人とともに年を取り、同じように傷んできている。従来は水回りのトラブルが中心だったが、今回は床のたわみとその補強がテーマとなった。


 補修した箇所は、条件の厳しい台所と洗面所である。水回り設備が集中して通常でも湿度が高い上、水をこぼすなどしてそれに輪をかけた厳しい環境にさらされている。おまけに、使用頻度が高く、それだけ傷みも激しいことになる。部屋の出入り口や流し台の前など、特定の床には人の重力も集中的にかかる。


 心配した素材の腐食までには至っていなかった。人が踏み込んだときのたわみが繰り返されるうちに、合板の接着に緩みが出て強度が落ちたようだ。工務店と相談の上、一番安直な方法で補強することにした。今までのものはそのままにして、その上にさらにもう一枚合板とビニルシートを貼る方法である。


 実は十数年前、屋根に同じようなことをした。劣化したコロニアル瓦の上に、特殊金属製のカワラを被せたのだ。似たような補修工事でも、塗装工事の場合はまったく意味合いが違ってくる。下地の錆はもとより、汚れや脂気は徹底的に除去しなければすぐにボロが出てくる。仕上がりと耐久性は、下地処理の良し悪しで決まる。その点、今回の床の補強にはそのような心配はいらない。


 台所に置かれている冷蔵庫と食器戸棚は、別の場所に移動させての作業となった。洗面所の洗濯機や衣類乾燥機ももちろん動かした。食器戸棚には、いつの間にか沢山の陶磁器や漆器が詰め込まれていた。普段の食器はごく少数に限られているのに、記念品などまったく使うことにない器具であふれんばかりになっていた。戸棚を動かす前に、それらの引っ越しに大汗をかいてしまった。


 床の補強工事は、いわば「臭いものに蓋をする」的な施行方法なので多少の抵抗感はあった。しかし、出来上がってみればそれなりに納得できた。部屋全体の床の厚みが従来の二倍になったのだから、強度も二倍近くに上がったことになる。建物の駆体はしっかりしているので、緩みのあった部分でも従来の強度を越える耐久性を確保したことになるはずだ。


 さらに偶然の結果だが、床面が1センチあまり高くなったことで、敷居との高さが揃いバリアフリー効果が出てきた。もちろん、敷居と反対側の部屋の高さはそのままなので、そこにつまずく危険性は半分だけ減ったことになる。


 今回は、ベランダのスノコの取り替えなども追加で発注した。これで、長年の懸案が一気に片付き、自宅での生活がいっそう快適になった。いまさなながら、早くやっておけばよかったと思う今日この頃である。
                       (2020年3月3日 藤原吉弘)