おせっかいな屋根屋

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[エッセー 529]
おせっかいな屋根屋

 ♪ピンポ~ン♪。「近くで工事をやっている者ですが、お宅の屋根が剥がれかけていますよ!」。「お知らせいただき、ありがとうございます。すでに業者に頼んであります」。「ああ、そうですか。わかりました」。午後3時過ぎ、わが家のインターフォンを通してのやり取りである。外は、雨がしきりに降っていた。


 もう、20年くらい前になる。同じようなことを、“近所で工事をしている”という人からいわれ、その人と一緒に屋根を眺めてみた。とくに変なところは見当たらなかったが、あそこがゆがんでいると指さし、修理した方がいいと勧められた。すぐ、建ててくれた工務店に連絡するといったら引き下がっていった。


 また何年か後に、同じようなことを、インターフォンを通していわれた。「工事をやっているのは、何番地の、なんというお宅ですか?」と聞き返してみた。前回のことを思い出したので、とっさにそんな応答をした。なにやら口ごもっていたが、そのまま立ち去っていった様子だった。


 専門業者に、他人の家のことまで気にかけてもらって、ありがたいことだと思う人がいるかもしれない。その時点で、この商法に半分以上乗せられたようなものだ。なんせ、屋根の上のことなので軒先しか見えない。「では、早速屋根に上って点検してみましょう」となれば、商売は成功を約束されたようなものだ。


 屋根には業者だけが上る。「お客さんは危険ですから下で見ていてください」といわれればそうせざるを得ない。しかし、下からでは屋根の上はまったく見えない。あとは、業者の思うままである。瓦の一枚も剥がして、こっそりひびでも入れておき、「このままでは大変なことになりますよ」と不安をあおる。


 その一方、「これだけ傷んでいたら、火災保険を適用してもらうことも可能ですよ」と安心感を与えることも忘れない。いわれた方は、「多少大きな工事になっても仕方がない」と思うようになる。そして、「ご近所で仕事をさせてもらった手前、料金はお安くさせていただきますよ」という一言がとどめとなる。


 わが家でも、あれ以降も何度か同じような訪問を受けた。今回は、台風15号で屋根が剥がれた事例が頻発したので、早速それに便乗しようとしたのだろう。それだけの親切心を持ち合わせているなら、困っている人がたくさんいる千葉県に行って、まともな商売をすればどれだけみんなに感謝されることか。


 わが家にやってきた職人のいうことが本当だったとしても、工事中の現場を放ったらかしてわざわざ他人の家のお節介をして廻るだろうか?朝から雨なのに、わざわざ屋根の工事に出かけてくるだろうか?それでも、その口車に乗せられる人がいるから、この商法がまかり通っているということだろう。


 誰からも見えそうで、もっとも盲点なのが屋根の上のことである。
                         (2019年9月22日 藤原吉弘)