汚染土壌と偽装生コン

イメージ 1

[エッセイ 221](新作)
汚染土壌と偽装生コン

 わが家からそう遠くない所に、ある通信会社の社宅があった。約半世紀前に建てられたコンクリート造りの中層住宅4棟からなる団地である。10年くらい前から空室が目立つようになり、とうとうゴーストタウンになってしまった。

 数年前、ここの再開発計画が発表された。建物を全部撤去し、戸建住宅用の宅地に造成しなおすという。用地約1万平方メートル、区画は63戸分だそうだ。高層マンション街に生まれ変わるとばかり思っていたがそうではなかった。住宅の需給形態も転換点にきたのかもしれない。

 いよいよ建物の解体工事が始まった。ダイナマイトで一気に粉砕してしまえば簡単だが、原野ならともかく周囲を住宅街に囲まれている場所ではそうはいかない。それでも、騒音や粉塵もあまり気にならず、工事は比較的短期間に終わった。更地になってみると、空は広がり、すっきりと明るくなったようだ。スカイラインは、人にやさしいなめらかな姿に変容した。

 すぐにも造成工事にかかるのかと思ったら、その一部を深く掘り返し始めた。それも、そばを走る市道を付け替えての広範囲なものになった。なんでも、土壌が汚染されていたのでそれの改良工事を始めたのだという。噂によると、社宅が建設される前は産業廃棄物の廃棄場所だったということだ。

 土壌改良工事は延々と続いた。おそらく、汚染された土壌は工事を始めてみて初めてわかったのだろう。そうでなければ、これほど工期が延びることはないはずだ。騒音はもちろん、重機を使っての工事なので振動も相当なものである。おまけに、今年は雨が少なかったせいで、掘り返された土が土埃となって舞いあがる。近隣の人は相当迷惑を被っていたはずである。

 その土壌改良工事が一段落したころ、市内の生コン会社が偽装を働いたという事件が起こった。なんでも、生コンに溶融スラブを混ぜて水増ししていたらしい。溶融スラブとは、廃棄物を燃やしてできた灰を高温で溶融して固め、それを粉砕したものだそうだ。JIS規格では、生コンには不適切な材料だという。

 あるマンションの壁に、ポップアウトと呼ばれる部分的に剥がれ落ちる現象が発生したことから、そのことが発覚し騒ぎが広がった。その生コンを、どうやらこの造成地でも使っていたらしい。せっかく完成した擁護壁はすべて取り壊され、打ち直しが始まった。

 「この宅地は、造成に莫大な費用がかかったはずなので、相当高く売りだすことになるのでしょうね」「いや、土地の値段は相場で決まるので、造成費用とは直接は関係ないよ。むしろキズものになったことで、安くなるのではないか」。家内とそのそばを通るたびに、こんな会話が交わされている。
(2008年9月30日)