アオダイショウ

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[エッセイ 423]
アオダイショウ

 町内を散歩していたら、突然、視界にヘビが飛び込んできた。ギクリとした。最初は、落ちている太い紐をヘビと勘違いしたのだと思ったが、まがいもなく本物のヘビだった。それも、立派なアオダイショウだった。もう何十年もヘビとは遭遇したことがないので、私にとってはかなりの驚きであった。

 それにしても、なんでこんなところにヘビがいるのだろう。あたりを見回すと、そこは街区から少し外れた傾斜地の土手の続きだった。そこには草が生い茂り、近くには川もある。ちょうどこの日は、梅雨の合間の湿った曇天の日だった。ヘビが出てきてもおかしくない天候であった。

 子供のころ、家にはアオダイショウが棲みついていた。夜になると、天井からザラザラというヘビが這う音が聞こえてきた。人間には害を及ぼさず、ネズミを退治してくれるのでむしろありがたい存在と考えられていた。ただ、なんといっても大きなヘビである。気味が悪いのは当然である。

 あるとき、棟続きの納屋の土間で、そのアオダイショウが長々と横たわって死んでいた。ちょうどその前日、ネズミ退治にとネコイラズを仕掛けておいたが、その毒薬を食べたネズミをヘビが食べてしまったようだ。サッカーでいえば、オウンゴールになってしまったようなものだ。

 このアオダイショウ、日本固有種で北海道から九州まで分布し、本土では最大のヘビである。漢字では「青大将」と書く。黒っぽい緑色をしていることと、とにかく図体が大きいことからそう呼ばれるようになったのだろう。一説には、「青大蛇」がなまって青大将と書くようになったともいわれている。

 肉食性で、とくにネズミやカエルが好物のようだ。そのため、人里近くや直接人家に棲みついてネズミを捕ってくれる。毒はなく、人を襲うこともないので、人間にとっては大変ありがたい存在といえる。ただ、なんといっても相手はヘビである。うす気味悪いことに変りはない。そんなことから、アオダイショウは「益爬虫類」であり、「不快爬虫類」でもある。

 このところ、人間との共生の生き物と相次いで出会った。それも、何十年ぶりのことである。アシダカグモ、そしてアオダイショウ、まったくの偶然だろうか、それともなにかの予兆だろうか。前者はゴキブリ退治に、後者はネズミ退治に、人間の大きな力となってきた生き物である。

 近年、環境が整備され、これら人間の味方であった生き物も数を減らしてきた。瀬戸内海では、カタクチイワシが激減していると聞く。その原因は、海がきれいになって餌となるプランクトンが減ったためだという。環境と生き物の関係について、もう一度考え直してみるときにきているのかもしれない。
(2015年7月15日)