優勝フィーバー Ⅱ

[エッセイ 671]

優勝フィーバー

 

 私のエッセーでは、2003年に阪神がリーグ優勝を決めたときの街の様子を、新聞記事から次のように引用していた。「・・道頓堀が『狂喜の街』と化した。阪神タイガースの18年ぶりの優勝が決まった15日夜、大阪・道頓堀の戎橋では、昨年のサッカーW杯時を上回る5千人以上がダイブを敢行。大阪府警の厳戒取締りにもかかわらず、男女が次々と川に飛び込み、なかには全裸で飛び込むものも出現。さらに橋の上では興奮したファンが胴上げ、ジェット風船も飛ばすなど完全な無法地帯と化した。・・」。(エッセー31・「優勝フィーバー」)

 

 今回はどうだったろう。手元の日経新聞はこんな風にレポートしていた。「・・府警は繁華街を中心に約1300人を投入。試合開始後の午後7時ごろから、拡声器で安全を呼び掛ける『DJポリス』のほか、飛び込み防止のため橋の両側に警察官を隙間なく配置するなどして厳戒態勢を敷いた。・・それでも優勝が決まると、橋周辺は大勢が記念撮影などのために滞留し、川沿いの遊歩道では柵を乗り越え川に跳び込む人が相次いだ。・・」。

 

 ところで、今回阪神を日本一に導いた岡田彰布監督の名前を眺めていると、どうしても前回日本一になったときの1985年のゲームのことを思い出す。ちょうど、息子と一緒に野球中継を見ていた。すると、3番バース、4番掛布、5番岡田の3人が立て続けにホームランを打った。それも、同じバックスクリーンに連続して打ち込んだのだ。まさに球史に残る名場面だった。あとで、38年前の記録を確認してみたら、4月17日の巨人戦でピッチャーは槇原だった。

 

 今回の阪神の日本一で、マスコミはその3人を関連づけて取り上げることを忘れなかった。各紙ともに、ランディ・バース氏と掛布雅之氏のコメントが紙面を飾っていた。ここで、あの年に三冠王を獲得したバースのコメントを取り上げてみよう。「やっと勝てた。長旅だったね」・・「投手がよかった。若手がいいし、これから長い間活躍できると思うよ」・・「世界一のファンのために、もう一度日本一になって欲しかった。私も遠くから喜んでいるよ」・・。

 

 それにしても素晴らしい日本シリーズだった。興行的にもこれ以上望みようがないという、理想的なゲーム展開だった。第6戦まで、勝った敗けたを繰り返して3勝3敗ともつれ、累計得点は23点対23点、すべてを最終第7戦にかけて臨んだ決戦だった。それまでの試合経過と感動的な結果を受けて、やはり道頓堀に飛び込んだ人がいた。それでも、大幅に減って37名だったそうだ。

 

 近年、次々と誕生する各種プロスポーツに押されて野球人気は停滞気味だ。とくにセリーグファンには、“実力のパリーグ”などと神経を逆なでされることもたくさん届いてきた。これを機に、プロ野球の大いなる盛り返しを期待したい。

                      (2023年11月7日 藤原吉弘)