くるみ割り人形

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[エッセイ 540]
くるみ割り人形

 

  いま、チャイコフスキーのバレー音楽「くるみ割り人形」を、CDで聞きながらこのエッセーを書いている。その中では、2番目に出てくる「行進曲」と、終盤に花やかに奏でられる「花のワルツ」が私にとってとくにお気に入りだ。


 この音楽のベースとなっているお話は、19世紀のドイツが舞台である。医事顧問官のシュタールバウム家では、恒例のクリスマスパーティーが開かれていた。娘クララは、名付け親であるドロッセルマイヤーが連れてくる彼の甥のクリストフにいつしか心引かれるようになっていた。二人は、夢のようなひとときを過ごした後、翌年もクリスマスには必ず会おうと約束する。


 1年後、クリストフは留学のため外国いた。クララとの約束を果たせなくなった彼は、くるみ割り人形を作って自分が行けない代わりにクララに渡しいてほしいと叔父のドロッセルマイヤーに頼む。その人形を受け取ったクララは、やがて不思議な冒険に巻き込まれていく・・・。


 こんなストーリーのバレーを、冬至の日、新宿文化センターで観賞した。NBAバレー団とそのオーケストラをあげての熱演だった。この「くるみ割り人形」は、チャイコフスキーの3大バレー音楽の一つであり、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」に続いて作曲されたものである。2幕3場、約1時間40分の大作である。作曲はもちろん、振り付けもロシア人の手によるものだが、物語の原作はドイツの「くるみ割り人形とねずみの王様」という童話が元になっている。


 あの夜から1年、クリストフが来ないと知って残念がるクララに、ドロッセルマイヤーは預かってきたくるみ割り人形をプレゼントする。しかし、その人形は弟のフリッツによって壊されてしまう。悲しむ彼女を見て、ドロッセルマイヤーはその人形に魔法をかける。すると、その人形は王子となったクリストフの姿となって生き返る。クララは、その王子とともにお菓子の城へと旅立っていく。


 このストーリーには、ネズミが沢山登場する。実は、このお話の舞台となった王国に、あるとき王子が誕生する。しかし、その場に居合わせた人が、誤ってネズミの女王を踏み殺してしまう。そのため、王子は呪われ、くるみ割り人形に変身させられてしまう。そんな逸話も交え、プロジェクションマッピングのような新しい手法も駆使して観客をファンタジックな世界へと引き込んでいく。


 実は、高校生の孫娘が、このショーの第1幕の終盤に、アマチュア合唱団の一員として登場した。私たちが出かけていったのはそんなご縁によるものだ。年末になると、クラシック音楽の世界はベートーベンの「第九交響曲」とともにこの「くるみ割り人形」がもてはやされる。来年はどんなバレー団がどのように舞台を展開していくのだろう。そして、どのようなクリスマスがやってくるだろう。
                     (2019年12月24日 藤原吉弘)

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