クジラの肉が食べられなくなる!

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[エッセイ 394]
クジラの肉が食べられなくなる!

 日本が、南極海で行ってきた調査捕鯨は、裁判によって事実上できなくなった。それに伴って、クジラ料理は私たちの前から姿を消すことになる。

 子供のころ、クジラの肉はずいぶん口にした。赤味の刺身やさらしクジラがよく食卓に上った。一方、初めて上京したころ、まだそれほど豊かではなかったはずなのに、関東ではあまり見かけることはなかった。西日本で盛んに食べられていたのは、やはり捕鯨基地・下関が近かったせいかもしれない。

 日本人になじみの深いクジラを、私たちから遠ざけようとしている元凶は「国際捕鯨取締条約」である。前文には、「鯨類の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序ある発展を可能にする条約を締結する」と記されている。1946年12月に署名し、1948年11月に発効した。1951年4月に加盟した日本を含め、現在の総加盟国は89カ国である。条約の実務組織は国際捕鯨委員会IWC)である。

 IWC(International Whaling Commission)は1982年に商業捕鯨の一時禁止を決めた。日本は1985年にそれを受け入れたが、代わりに1987年からクジラ資源の状況を調べるという名目で調査捕鯨を始めた。国際捕鯨条約が、第8条で「科学的研究のための捕獲、殺害、処理」が例外的に認めているからだ。

 現在、調査捕鯨を行っているのは日本だけである。計画捕獲頭数を、3鯨種で年間最大1,415頭とし、毎年南極海に船団を派遣してきた。この計画は、日本の商業捕鯨の最終年の実績、1,941頭の7割強に上る。しかし、シー・シェパードの妨害や、鯨肉の在庫過剰もあって実績はそれを大きく下回っている。

 反捕鯨国であるオーストラリアは、「日本の調査捕鯨は事実上の商業捕鯨だ」として、それの差し止めを求めて国際司法裁判所に提訴していた。この3月末に判決が下り、調査捕鯨の権利は認められたものの、実質、日本の全面敗訴となった。日本政府は従う方針で、1987年以来の調査捕鯨は中止することになる。

 この判決結果を受けて、日本国内でもいろいろな意見がたたかわされている。「牛や豚は平気で殺すのに、なぜクジラは可哀そうだから殺すなというのか。反捕鯨国の身勝手ではないか」「クジラは日本人の大切なタンパク源だから資源管理しながらも捕鯨は続けるべきだ」「クジラの食文化が失われてしまう」・・。

 しかし、クジラはすでに一部マニアの特殊な食材の部類に入っている。調査捕鯨というが、なぜこれほど大量に捕獲しなければ調査できないのか。なぜその肉を売っているのか。国民に対してはまったくの説明不足である。調査は、捕獲を最低限にとどめ、あとはウォッチングでいいのではないか。

 考えてみたら、あれから半世紀もクジラは食べたことがない。それほどうまいものでもなかった。いまさら、むきになって食べたいとも思わない。
(2014年4月14日)