巳年

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[エッセイ 363]
巳年

 紀元前、古代中国に数字はまだ存在していなかった。その一方、文明の発達とともに、物事の順番を表す記号の必要性が高まっていた。そこで編み出されたのが、十二支ならびに十干と呼ばれる序数である。十二支の子・丑・寅・卯・・の記号は、生命消長の循環過程を説明したものだといわれている。十干の甲・乙・丙・丁・・の根拠は定かではないが、中国の皇帝が、自分の10人の妻を呼び分けるために符号として使っていたものだという説がある。

 さらに彼らは、「甲子(きのえね)」のように両者を組み合わせて60通りの序数を作りだした。これらの序数は、当初は日付の表記に利用されていたが、戦国時代以降は年、月、時刻、方位などにも利用されるようになった。

 十二支は、字の読めない人にも覚えやすくするために動物の名前も当てられた。なぜその動物を当てはめたかの根拠は定かではないが、文字の響きやイメージから考え出されたものと思われる。今年は巳年であるが、「巳」の本来の読み方は「し」だそうだ。巳の原字は頭と体ができかけた胎児を描いたもので、子宮が胎児を包み込む様を表す「包む」の中の字と同じである。

 この「巳」は序数でいうと6番目にあたり、月の名前でいうと旧暦で4月、西暦では9月にあたる。季節で考えると、植物に種子ができ始める時期に該当する。「漢書律暦志」では、「巳」を草木の生長が極限に達して次の生命が作られ始める時期としている。

 今年の主役であるヘビは、トカゲからの分化と考えられ、全世界で3千種類がいるそうだ。耳は退化し、代わりに地面の振動を下顎で感知するという。視力は概して弱く、退化したものさえいる。足の退化した彼らの移動方法はもちろん蛇行や横ばいに特徴があるが、腹筋を動かして直進することもできる。

 ヘビの最大のものは10メートルにもなるアミメニシキヘビやオオアナコンダ、最小のものは10センチしかないメクラヘビだという。ヘビの25パーセントが毒をもつそうだからやはり怖い生き物ではある。その毒蛇で最大のものは、5メートルにもなるキングコブラだそうだ。

 巳という字は胎児の形を表した象形文字であるが、ヘビが冬眠から覚めて地上にはい出す姿を現しているともみてとれる。ヘビが、「起こる、始まる、定まる」の象徴といわれるゆえんである。ヘビは脱皮することから「復活と再生」の象徴ともいわれている。「ヘビの抜け殻を財布に入れておくとお金がたまる、宝くじが当たる」など、ヘビの金運にまつわる話は枚挙にいとまがない。

 ヘビは怖いが、神秘性を秘めた縁起のいい生き物として崇められてもいる。こうした言い伝えを前向きに捉え、今年を再起と金運の年にしてはどうだろう。
(2013年1月14日)