牡蠣

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[エッセイ 336]
牡蠣

 寒い日は牡蠣(カキ)鍋が美味い。しかし、今年は値段が高くてなかなかお目にかかれない。カキの品薄、高止まりは、あの大津波によって、三陸地方の養殖イカダが壊滅的な打撃を受けたためと伝えられている。2割近い商品が消えると、市場は衝撃的ともいえるほどの大きな影響を受けるようだ。

 ちなみに、県別の生産シェア(平成21暦年)は、広島県56.6、宮城県14.5、岡山県12.0、兵庫県4.2、岩手県3.8などとなっており、上位5県で91.1%を占めている。被災地の宮城、岩手のシェアは併せて18.3%となる。

 被災地である三陸のカキ養殖業者へは、広島はもとよりフランスの養殖業者からも支援が届いたという。フランスでは、1970年と90年にカキ(ヒラガキ)の病気が蔓延し、養殖産業は危機に陥った。そのとき、カキの幼生を送って窮地を救ったのが三陸の養殖業者だった。フランスでは、2008年以降もカキの大量死が頻発し、業者は窮地に立たされたままだという。それでも、彼らは三陸との絆を大切にしたいと、支援を最優先課題として取り組んだようだ。

 カキは、夏の初めごろその幼生が浮遊しだし、硬いものに付着してそこで一生を過ごす。まったく動くことがないので、筋肉は退化しほとんどが内臓になる。養殖は、ホタテの貝殻をロープでイカダに吊るしておくだけだ。それでも、岩などに比べ生育環境は格段に優れているので立派なカキに育つという。

 日本では、寒い時期にはマガキを、夏には岩ガキを食べる。マガキは秋から冬が旬で、産卵期の暑い時期には食べられない。この時期になると精巣と卵巣が非常に増大し食用にはならないのだそうだ。英語のRのつかない月(May, June, July, August)(5~8月)がそれに当たる。一方、イワガキは春から夏が旬だが、マガキとイワガキの外見上の区別は大変難しいということだ。

 欧州では、もとはヒラガキが主流であった。別名をヨーロッパガキとも、フランスガキとも呼ばれている種類である。ところが、前述のようにヒラガキは絶滅寸前となり、いまでは日本原産のマガキが90%を占めているという。

 食材としてのカキは「海のミルク」とも呼ばれ、グリコーゲン、必須アミノ酸たんぱく質、カルシウム、亜鉛、ミネラルなどが豊富である。料理は、フライ、天ぷら、カキ鍋、土手鍋、網焼き、生食、カキご飯、カキカレー、お好み焼き、燻製など多様である。魚介の生食を嫌うヨーロッパにあって、唯一、カキの生食だけはフランス料理の定番として多くの人に愛されている。

 若いころ、カキは精がつきすぎるので若者には体に毒だといわれたことがある。いまなら、一生懸命食べて元気を取り戻せといわれるはずだ。三陸地方のイカダが早期に復旧し、元の賑わいを取り戻すことを切に祈りたい。
(2012年2月15日)