三島スカイウォーク

イメージ 1

イメージ 2

[エッセイ 439]
三島スカイウォーク

 グラウンドゴルフの研修旅行の帰り道、新設の三島スカイウォークに立ち寄った。さっそく、大枚千円を払って橋に向かった。橋は通行人というより“入場者”で大変な混雑だった。雲が垂れこめ、足元からは強風が吹き上げてくる。橋は左右に微妙に揺れ動く。眼下の谷では、無数の白い切り株が無残な姿をさらしていた。なんでも、カエデなど見栄えのいい木を植えるため、スギやヒノキを切り倒したのだそうだ。周囲の山の姿も大きく変えられていた。

 それにしても、売り物の富士山の雄姿は全く目にすることができなかった。すれ違う人たちと袖をすり合い、前の人たちの背中を見ながら、全長400メートルといわれる橋をやっと渡り終えた。道はそこで行き止まりになっていた。代わりに、小さな広場と小高い丘の上に展望台が設置されていた。

 この橋は、渡るものではなく、その上から景色を眺めるためのようだ。しかし、雲が垂れこめ、富士はもとより、駿河湾さえほとんど見ることができなかった。とにかく、その小高い展望台まで登ってみた。そこには、きれいなパノラマ写真のパネルが立てられ、視界のいい日の眺望を暗示していた。仕方なく、そのパネルを写真に収め絶景に満足したことにした。

 この吊橋は全長400メートル、歩道橋としては390メートルの九重“夢”大吊橋(大分県九重町)や375メートルの竜神大吊橋(茨城県太田市)を抜いて長さ日本一だそうだ。これら3本の吊橋はいずれも景観を売り物に観光用として設置されたものだ。しかし、富士山を除けば、この三島スカイウォークは周囲の景観において、他の二つの吊橋に大きく後れをとると考えられる。

 参考までにと、「橋」という言葉を辞書で引いてみると、「一方の岸から向こうの岸へと川の上にかけわたして、通路とする構築物」と説明されていた。もう一つ、「skywalk」という単語を英語の辞書で引いてみると、「(ビル間の)高架通路」とあった。この三島スカイウォークには、渡った先に行く所はない。どうやら、「展望台」ではあっても機能的には「橋」とは言い難いようだ。

 天下の観光地箱根といっても、その目玉はほとんどが神奈川県側にあり、静岡県側に見るべきものはほとんどない。なにか観光客を呼び込めるようなものはないかと模索するのはけだし当然であろう。しかし、橋として必要とされない構造物であれば、自然破壊を伴う無用の長物でしかない。まして、売り物の富士山の眺望も、天候のリスクはきわめて大きい。

 もし、通路でなく展望を目的とするのであれば、展望台を設置すれば済むことではなかろうか。もちろん工事費も大幅に安く、入場料も格安に設定できるはずである。「通路」としての価値がほとんどなく、通行料だけけた違いに高いとなると、来訪者が一巡した後は誰も寄り付かなくなるのではなかろうか。
(2016年5月28日)