スコットランド民謡

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[エッセイ 416]
スコットランド民謡

 いま、卒業シーズンを迎え、あちこちから「蛍の光」が聴こえてくる。NHKの朝ドラ「マッサン」でも、これが準主題曲として別れの場面などによく流されている。この曲の元は、「オールド・ラング・サイン」というスコットランド民謡である。旧友と再会し、酒を酌み交わしながら思い出話にふっけっている情景を歌ったものだ。曲名は「久しき昔」などと邦訳されている。

 朝ドラのマッサンでは、蛍の光に限らずいろいろなスコットランド民謡が登場する。ドラマの主題であるウイスキーの発祥の地が、蛍の光の原曲を非公式ながらも準国歌としているスコットランドだからだろう。そしてこの地が、主人公の奥さんであり、このドラマではヒロインとさえいえるエリーさんの祖国であるためだろう。

 スコットランド民謡とNHKの朝ドラといえば、前作である「花子とアン」にもそれが登場する。花子が入学した学校の寮で、スコットという女の先生がよく歌っていた。それを花子が聞き覚え、後に彼女自身も歌うようになる。「悲しみの水辺」という曲がそれである。最近では、「広い河の岸辺」という題名でシャンソン歌手のクミコさんが歌い大ブレークしている。

 私たちになじみの深いスコットランド民謡といえば、これらのほかに「故郷の空」や「アニーローリー」などがある。なぜこんなにスコットランド民謡が日本人に親しまれるのだろう。それは、そのメロディーが日本人の心に共鳴するものが多いからにほかならない。しかも、学校の教材として小さい頃から親しみ、一種の郷愁となって私たちの心に深く浸透しているためであろう。

 さらにもう一つ、大きな要因が考えられる。それは、その音階のほとんどが「四七抜き(ヨナ抜き)」であることだ。ヨナ抜きとは、音階であるドレミファソラシドのうち、下から数えて4番目の「ファ」と7番目の「シ」を使わないメロディーのことをいう。伝統的と思われがちだが、明治以降に形づくられたもので、民謡や童謡、そして流行歌に多く用いられている音階である。

 裏返すと、「ファ」や「シ」には不安感をあおる要素があって、特に日本人にはなじめない音程である。中世のヨーロッパでもあまり好まれてはおらず、これらを「悪魔の音程」とさえいっていたそうだ。これらをひっくるめて考えてみると、ヨナ抜き主体のスコットランド民謡は、覚えやすく歌いやすい、耳触りがよくて心によくしみわたる、とても親しみやすい歌だといえる。

 “蛍の光”は、アメリカやイギリスでは、大晦日のカウントダウンで、年が明けた瞬間に歌われる新年ソングだそうだ。私たちも、前向きの応援歌として口ずさんでみてはどうだろう。せっかくの美しいメロディーなのだから・・。
(2015年3月18日)