二股初詣

イメージ 1

イメージ 2

[エッセイ 364]
二股初詣

 老々男女三十数名を乗せたバスは、早朝に町内を出発した。東名から新東名に入ると、バスは急にスピードを落とした。運転手が、青い空に浮かぶ真っ白な富士山を、乗客に堪能させようと気をきかせたのだろうか。いや、新設計の緩やかなカーブと滑らかな路面が、私たちにその錯覚をもたらしたようだ。

 最初に訪れたのは富士山本宮・浅間大社である。ここで、富士山を間近に仰ぎながら、大社に向かってこの日最初のお祈りをした。富士宮というと、B級グルメの富士宮やきそばを連想してしまうが、ここは元来その名のとおり富士山と大社をセットで拝める全国有数のパワースポットである。

 私たちの次の主な目的地は久能山東照宮である。一旦、日本平に向かい、険しい谷で隔てられた久能山へはそこからロープウェイで渡る。景勝地として名高い日本平からは、眼下に清水の港と美しい海岸線の三保の松原が望める。その先には富士山が見えるはずだが、あいにく霞に隠れて目にすることはできなかった。あのベールは、ひょっとすると天女の羽衣だったのかもしれない。

 ロープウェイの駅から急な石段を登っていくと、極彩色の絢爛豪華な神社が現れた。徳川家康を祭神とする、久能山東照宮である。ここで、二度目の“初詣”を、念を入れておこなった。日本平にUターンしてきた私たちを待っていたのは、フルーツ食べ放題のまことに気の利いた企画だった。

 ところで、今回お参りした2つの神社は、いずれも極めつきの有名神社である。最初の富士山本宮・浅間大社は、紀元前27年に富士山の山霊を山麓に祀ったのが始まりといわれている。時代は下って西暦806年には、坂上田村麻呂によって現在地に社殿が造営された。社格名神大社、旧官幣大社そして駿河国一の宮であり、全国1300余あるといわれる浅間神社の総本社だそうだ。本殿は重要文化財に指定されている。

 久能山東照宮は、家康の亡くなった翌年、1617年末にわずか1年半の工期で完成にこぎつけられた。権現造・総漆塗そして極彩色、江戸の守りとして19年後に造営された日光・東照宮の原形をなすものである。平成22年には国宝に指定されている。祭神・家康のお墓はこの神社の裏手にある。

 この日、朝方は底冷えがしたが、昼間は暖かなお日さまに恵まれた。道々仰ぐ富士山は、実に神々しく心の洗われる思いであった。しかも、有名神社に2カ所もお参りしたのだから、ご利益も相当期待できるはずである。だが待てよ、二股かけて本当によかったのだろうか。今になって少々心配になってきた。

 「力のある神社だから、先方に任せておけばいいだろう」。もし、両方の神様が同じように考えられたとしたら、お参りした効果は台無しになってしまう。
(2013年1月27日)

写真 上:富士山本宮・浅間大社
    下:久能山東照宮