[エッセイ 335]
映画会
町内の映画会で「七人の侍」を観た。1954年発表というから半世紀以上も前の作品だが、古臭さなどまったく感じさせない。全編3時間27分があっという間に過ぎていった。さすが黒沢作品、歴史に残る超大作である。
ときは戦国時代、世の中は荒廃しきっていた。野盗化した野武士たちは、収穫をねらって村を襲い、食料はおろか女性までも略奪していく。耐えかねた農民たちは、村を守るために7人の侍を雇う。とはいっても、報酬は腹いっぱい飯を食わせることくらいしかできなかった。
村を狙う野盗は全部で40人、侍たちは、知恵を絞り、策を練って野盗を一人ずつ仕留めていった。敵はついに13人にまで減った。侍たちは、残りの敵を一気に村におびきいれ決戦を挑む。野盗はついに全滅、雇われた侍も4人が討ち死にした。終わってみれば、勝利したのは農民たちだった。
この作品で侍役を演じた志村喬や三船敏郎など7人の俳優は、いまは誰もこの世に残っていない。黒沢監督も含め、全員が21世紀の世を見ることはなかった。ただ、この作品で活躍した津島恵子や島崎雪子はいまも健在のようだ。それでも、容赦ない時の移ろいは、無常心を膨らませていくばかりである。
この映画会は、毎月第4金曜日の午後、町内の集会所で開かれている。過去の名作から希望の多いものを選び、邦画と洋画を交互に上映する。入場は無料で、誰でも気軽に参加できる。上映予定作品については事前に解説書が配られる。毎回20人以上が集い楽しいひと時を過ごしている。
この町内の映画会は、ご奇特な方々のボランティアによって成り立っている。中心になって活動している方は、ご自身の所有するDVDと必要機材を持ち込み、おまけに映写技師まで担当されている。個々の映画にもよく精通されており、解説書の原稿もご自身で執筆されるそうだ。
一般に、映画は最低でも1時間半から2時間近くもかかる。映画館で鑑賞するとなると、前後を入れると半日近く拘束されることになる。興味をそそられる作品になかなか出合えなかったということもあるが、手間や費用を考えるとつい腰が引けてしまうのも事実である。
そんな私が、この映画会のおかげで毎月名画に接せられるようになった。もっとも、参加の目的は、映画を観たいのが半分、近所の人たちと交流したいが半分といったところだ。観た映画を主題に、同世代の人たちと共感しあい、古き良き時代の思い出に浸れるのも悪くない。
一人だけの夕食や一人で観るテレビがいかにつまらないか、そしてみんなで観る映画がいかに楽しいか、この映画会を通して改めて実感させられている。
(2012年1月29日)