辰年

イメージ 1

[エッセイ 333]
辰年

 今年は辰年?竜年?それとも龍年?どう書くのが正しいのだろう。

 太古の昔、中国では一年を月の満ち欠けによって12通りに分け、それぞれに符号をつけて呼び分けた。それが、子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)・・の十二支である。これらの符号は、月だけでなく年や日にも当てられ、別につくられた甲(きのえ)、乙(きのと)、丙(ひのえ)・・などの十干と組み合わされて、60通りの序数で呼び分けられるようになった。

 当時は、文字を読める人は少なかったので、十二支を覚えやすくするために動物の名前が当てられた。それが鼠、牛、虎、兎、竜・・である。したがって、今年の十二支を、漢字では“辰”と書き、絵では“竜”を描くのが正解である。それはともかく、なぜ一つだけ架空の生き物を入れたのだろう。それも、どうやら当時の大部分の人は、竜は実在するものと信じ込んでいたようだ。

 ところで、漢字には「竜」と「龍」の2種類がある。前者は後者の省略体と見られがちだが、元の字は竜でありそれしかなかった。竜は、中国では皇帝のシンボルだったので、それをさらに荘厳に見せかけるために龍という字が新たにつくられたらしい。したがって、竜と龍は併存するが、日常においては竜を使うのが原則である。龍は人名漢字としても認められているので、人名や地名など龍と特定されている場合に使うのが妥当のようだ。

 竜と呼ばれる架空の生き物は世界各地に存在するが、私たちのイメージする竜は中国の南宋時代のものがもっともポピュラーである。頭は駱駝に、角は鹿に、眼は鬼または兎に、胴体は蛇に、腹は蜃に、背中の鱗は鯉に、爪は鷹に、掌は虎に、耳は牛にそれぞれ似ているという。また、口辺に長髯をたくわえ、喉下には一枚だけ逆鱗があり、顎下には宝珠をもっている。

 中国では、竜は神獣とも霊獣とも信じられ、皇帝の象徴とあがめられている。普段は地中に棲むが、秋になると淵に潜み、春には天に昇るという。その啼き声によって雷雲や嵐を呼び、また竜巻となって天空に昇り自在に飛翔する。

 竜は英語ではドラゴン(dragon)と訳されている。しかし、西洋のドラゴンは東洋の竜とは全く違う。一説によると、ドラゴンはトカゲ或いはヘビに似た恐ろしい伝説の生物である。鋭い爪と牙を持ち、多くは翼をそなえ空を飛ぶことができる。しばしば口や鼻から炎や毒の息を吐くともいう。

 東洋の竜が神聖で万能であるのに対し、西洋のドラゴンはどちらかというと悪役のイメージが強い。これらに漢字を当てるとしたら、東洋の竜には“龍”を、西洋のドラゴンには“竜”をあてるのが面白いのではなかろうか。

 今年は復興から飛躍へと向かう年、すべからく登り龍といきたいものだ。
(2012年1月3日)