ワンパターンな犬

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[エッセイ 326]
ワンパターンな犬

 先週木曜日、息子が4~5日預かってくれといって犬を連れてきた。その息子から頼まれて、今年の春まで10年間も預かっていたあのダックスフンドである。息子たち家族は、土日の休みを利用して二泊三日の旅行に出かけるのだそうだ。業者に預けるのは可哀そうなので、わが家に連れてきたのだという。

 10年間も飼われていた犬にとっては、預けられたというより里帰りしたといった方が当たっているかもしれない。最初こそおとなしくしていたが、だんだんもとの姿に戻り、以前と同じ振舞いをするようになった。甘えるしぐさも、わがままを通すさまも、すっかりもとの状態に戻った。

 翌朝さっそく散歩に連れ出した。「また帰ってきたのと」と隣のおじさんに声をかけられ、犬は懐かしそうに?しっぽを振って応えていた。向かいのおばあちゃんに出会ったら、すぐ抱かれにいき一生懸命顔をなめていた。好きなように歩かせてみたら、従来と全く同じルートをたどっていった。半年前までと同じ所でオシッコをし、その数メートル先で同じようにウンチをした。

 二日目の朝だった。家内が拭き掃除を終えて、雑巾バケツを屋外のいつもの場所に置いて戻ってくると、犬が突然吠え出した。そうだ!これはお菓子を忘れないでという合図だった。あのころ、掃除が一段落すると二人でお茶飲みをしていた。そのとき犬がそばに来て食べ物をねだるので、ビスケットを一切れやって台所で待たせることにしていた。いま吠えたのはその催促だった。

 犬というのは、習慣性の極めて強い生き物だということを改めて思い知らされた。そんなことを考えていたら、犬を使った条件反射の実験があったことを思い出した。たしか、高校のころ授業で習ったような気がする。さすがに、実験の名前までは思い出せなかったが、その内容は明確に記憶していた。さっそくインターネットを開いてみた。

 それは、ロシアの生理学者イワン・パブロフ(1849-1936)が、犬を使って実験したものだった。「パブロフの犬」という名のその実験は、鈴を鳴らして犬に餌を与えるという行為を一定期間続けると、その犬は鈴を鳴らすだけでヨダレを垂らすようになるという。彼はその反応を条件反射と名付けた。パブロフは、これを含む一連の研究で、1904年にノーベル賞生理・医学賞を受賞した。ロシア人初のノーベル賞受賞者だそうだ。

 今回預かった犬も、半年前までと全く同じことを同じように繰り返している。ワンパターンという洒落もシャレにならないほど変わっていない。しかし、振り返ってみたら、家内や私も、半年前と同じパターンで犬に接していた。どうやら、条件反射の原理は犬も人間も同じようにあてはまるらしい。
(2011年11月8日)