ヒヨドリのヒナたち

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[エッセイ 319]
ヒヨドリのヒナたち

 ヒヨドリのつがいが、ピーピーと鋭い声をあげながらそこら中を飛び回っていた。その動きから、なにか異常なことがおきたと推察された。すぐ庭に出てみた。彼らのヒナとみられる幼鳥が、庭の隅で短い羽をバタつかせていた。

 どうやら巣から落ちてしまったようだ。このままではノラ猫にやられてしまう。それかといって、元に戻してやるには高すぎる。巣は、ハナミズキのてっぺんの近く、二階のベランダよりさらに高い位置にある。とりあえず、ヒナをバケツに入れて、梅の枝に引っ掛けておくことにした。

 ヒヨドリの巣がそこにあり、子育てをしていることは以前から分かっていた。いつもの植木屋が二日後に手入れに来ることになっており、その木だけは剪定を見送ろうと話し合ったばかりである。落ちてきたヒナを助けてやってやれやれと思っていたら、他の場所からも同じような鳴き声が聞こえてきた。探し出して保護したが、こちらはすぐにも巣立ちできそうなほど元気だった。

 それにしても、あのヒナたちのことはこれから先どうしたものだろう。そういえば、衰弱した子猫がわが家の車庫に横たわっていたことがある。そのときは、市役所に連絡して保護してもらった。今回もそちらに相談してみることにした。午後5時を少し過ぎていたためだろうか、電話には警備員が出た。用件を伝えると、専門の業者を差し向けるという。

 再び庭に出て、バケツのところに戻ってみると、30~40センチほどのヘビがヒナをくわえて連れ去ろうとしているところだった。さいわい、ヒナが大きすぎたらしく、まだ飲みこまれてはいなかった。すぐ竹箒で追い払った。バケツの中を見ると、もう一羽がいなくなっていた。

 いままで見落としていたが、ハナミズキの根元にはさらにもう一羽が横たわっていた。すでに息は絶えていた。結局、巣には三羽のヒナがいたようだ。それがなにかの拍子で事故に見舞われたらしい。ひょっとすると、先ほどのヘビが巣を襲い、パニックになったのかもしれない。

 そのとき業者がやってきた。結局、保護した一羽は動物園に入院させてもらうことにした。すでに息絶えているもう一羽は、業者が埋葬してくれるこという。そして、いなくなったあとの一羽は、どうやら巣立っていったようだ。そういえば、すぐそばのヤマモモの木から幼い鳴き声が聞こえていた。

 業者が帰った後、市役所に電話してお礼をいった。警備員は、「この仕事をやらせてもらって一年半になるが、お礼をいわれたのは初めてです」といっていた。それにしても、入院した幼鳥は元気を取り戻しただろうか、巣立っていったヒナは親のそばで活発に飛びまわっているだろうか。
(2011年8月25日)