藤のすだれ

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[風を感じ、ときを想う日記](438)5/9
藤のすだれ

 歌手・鳥羽一郎さんが歌う「兄弟船」の三番に、♪雪の簾をくぐって進む♪という一節がある。母親に少しでも楽をさせようと、仲のいい兄弟が吹雪を突いて沖の漁場へ向かう。そんな簾のある光景が陸の上にもあった。

 市内の、ある農家に立派な藤棚があり、一般の人にも公開されていると聞いた。それほど遠くはないので、散歩がてら出かけてみることにした。小高い丘のふもと、広大な屋敷の一角に噂の藤棚はあった。

 その藤を拝見した途端、例の雪の簾を連想させられた。棚にぶら下がった藤の花は、房ではなく吊るし雛のような格好をしている。日当たりの関係だろうか、茎は縦方向にだけ長く伸びたようだ。その茎が簾のように、反対側が見通せないほど密集している。それでも、藤の花のほのかな香りが、訪れる人を優しく包み込むように漂っていた。

 このお宅の棚は、手作りのためだろうか、人の手の届く高さにしつらえられ、それが宅地いっぱいに張り巡らされている。棚の下には、1メートルにも達しようという藤の花がびっしりと垂れさがっている。あまりにも低いため、体を二つ折りにしないと奥には進めない。まるで、雪の簾に向かって一歩ずつ歩みを進めているときのような趣である。

 来年は、いったいどのように私たちを楽しませてくれるのだろう。