袋田の滝

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[エッセイ 296]
袋田の滝

 紅葉見物を兼ねて訪れた袋田の滝は、茨城県北部の大子町にあった。久慈川の支流である滝川の、もっとも険しい渓谷のど真ん中に鎮座している。袋田の滝の見物は有料だった。周辺の地形が険しく、観漠のための施設を利用しないと満足に見物できないためである。

 その袋田の滝は、落差120m、幅73m、4段の滝からなっている。春は新緑、夏は水音、秋は紅葉、そして冬は氷結。四季折々、趣の異なる風景を4度楽しめることから、「四度の滝」ともいわれている。この滝は、南紀那智の滝や日光の華厳の滝と並ぶ日本三名瀑の一つとされ、1990年には日本の滝百選で人気投票の第1位に選ばれている。

 滝は落ちるとすぐ直角に左に曲がる。両岸は高い断崖絶壁になっており、人は滝の正面まで容易に近づくことができない。そこで、滝に抜けるトンネルが掘られ、その正面に観漠台が設置された。さらに、滝の全景が眺められるようにと、トンネルに続く縦抗を掘ってエレベーターが設置された。いずれも、自然を傷つけないための配慮から発案されたものである。
 
 昭和54に完成したそのトンネルは、幅4m、高さ3m、長さは276mという大規模なものだ。途中からエレベーターの順番を待つ人の列ができていた。最初に造られた第1観漠台はトンネルの一番奥右手にあるが、そこには寄らずとにかくエレベーターで高いところに上がることにした。

 エレベーターを降りるとすぐ目の前が観漠台になっていた。第1観漠台からは44mも高い位置にある。高層ビルの屋上といった雰囲気である。この観漠台の上には二層の櫓が組まれ、さらに7m高い位置まで上ることができる。この施設のできる平成20年までは見ることのできなかった最上段も含め、4段の滝の全景をはっきりと俯瞰することができた。

 エレベーターで下に降り第1観漠台に出た。一番大きい最下段の滝が、滝壺を隔てて目の前に迫る。流れ落ちる轟音が腹に響く。水しぶきが顔に飛んでくる。そういえば、華厳の滝は、エレベーターでわざわざ下に降りて観漠するようになっている。カナダのナイアガラの滝では、霧の乙女号という船に乗って濡れながら滝壺に大接近する。両方とも、普通に高い位置から見物できるのにわざわざ下まで降りていく。やはり、滝は下から見上げるに限るようだ。

 袋田の滝は、その規模において華厳の滝那智の滝を超えているのに、滝の魅力である豪快さにおいて両者に大きく後れをとっているようだ。やはり4段に分かれていることが響いているのかもしれない。しかし、その分、優しさと美しさにおいて大きく水を開けているようだ。
(2010年11月23日)