[エッセイ 289]
適薬適所
5月の下旬ごろだった。右足の、くるぶしの近くに小さな湿疹ができているのに気がついた。患部は赤く腫れ、かゆみも少しあった。市販の湿疹の薬を塗ってみたが一向によくなる気配はなく、日数だけが無為に過ぎていった。
非ステロイド系では弱いのかもしれないと思い副腎皮質ホルモンも試してみた。数日使ってみたがあまり思わしくなかった。その形から、ひょっとしたら田虫のようなものかもしれないと思いその薬も塗ってみた。しかし一向に改善せず、むしろ悪化しているようにさえ見えた。
ある日、近所のドラッグストアで薬剤師に相談してみた。彼女は、「いろんな薬を使っていると、かえってこじらせることがありますよ。この薬で少し落ち着かせて、改めて治療しなおすことにしたらどうでしょう」といって軟膏を提供してくれた。それまで、数日間試してみて、変化がないとすぐ別の薬に変えていたが、それがかえってよくなかったようだ。彼女の好意に報いようと、今度は辛抱強くやってみた。それでも結局はうまくいかなかった。
それからまた数日が過ぎた。ある朝、靴下を履こうとして、足の指の間に水泡ができているのに気がついた。水虫でももらってきたのではなかろうか。最近は、公共の場所で不特定多数の人が利用するスリッパを履く機会が多い。ゴルフ場の浴場でも、いつもらってきてもおかしくはない。
そういえば、後頭部にも湿疹があって一年近くも痒みに悩まされつづけている。昨年、あり合わせのシャンプーを使ったために、数十年ぶりにフケに悩ませることになった。その悩みはシャンプーを元の弱酸性のものに戻すことによって一旦は解消した。ところが、その後に小さな湿疹が芽吹き居座ってしまったのだ。直射日光にさらされる場所なので、非ステロイド系の軟膏を試してはいたがすっきりとは解消しなかった。
こう重なると、もう素人の手には負えない。やっと専門医に診てもらう決心がついた。その日のうちに、評判の皮膚科を訪ねた。医師は、頭皮とくるぶしの近くにできた湿疹を一目見ただけで即座に診断を下した。3カ所目の足は、はがれかかっている皮を少し切り取って顕微鏡で覗いた。彼は、3種類の病名とそれに対応する薬の見本を見せながら、テキパキと処方箋を書いてくれた。
それから毎日、指示されたとおりにきちんと患部に薬を塗りつづけた。10日くらいで、3カ所とも塗る場所が分からないくらいに改善した。足の水泡はやはり水虫だったので、その後も1カ月くらいは念のためにと薬を塗り続けた。
餅は餅屋。適材適所、適薬適所。素人があれこれ悩んでいないで、早く専門の皮膚科を訪ねるべきだった。
(2010年8月9日)