駅前留学

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[エッセイ 278]
駅前留学

 東京駅の京浜東北線ホームで、外国人から成田エクスプレスの切符を見せられ「どこから乗ればいいの?」と聞かれた。私はとっさに「あっち!」と答えて、中央階段の方を指さし足早にその場を離れた。振り返ってみると、その外国人は別の人に同じことを聞いているようだった。私がまだ会社勤めをしていたころのことである。

 「あっち」は間違いではないが、なぜもっと親切に教えてあげられなかったのだろう。じっくり考えてゆっくり話せば、それくらいのことは伝えられたはずなのに・・。私に限らず日本人は外国人に出会うと、とっさの一言に困惑しその場から早く逃れようとする。そして、後でうじうじと悔やんでしまう。

 近所の高校で開かれている英会話教室でも同じような光景がみられる。先生から「エニーニュース?」と問いかけられても、「・・・、ナッシング!」と応じるのがやっとである。日本人はとっさの対応があまり得意ではないようだ。ましてそれが英語となるとなおさらである。

 この英語でのやりとりは、受講生にとって大きなプレッシャーになる。4月開講時には多すぎるほどの受講生が集まっているが、1人減り2人減りで年度が終わるころになると半分くらいに減っている。人数が減ったのは、単に三日坊主の人が去っていっただけではなかったようだ。

 私がお世話になっているその英会話教室は、学校が駅前にあることもあって駅前留学と呼ばれ親しまれている。毎月第2、第4土曜日の午後の1時間半、父兄や近所の人を対象に無償で解放されている。教師は2人、気持ちよく根気よくボランティアで取り組んでいただいている。もう9年間も続いており、いよいよ10年目の節目を迎えることになる。

 授業内容を昨年度の例でみると、前期が「海外旅行へ行こう」、後期が「ホストファミリーになろう」というテーマでカリキュラムが組まれている。実際に会話ができるようになるよう、基礎から易しくいろいろな角度から解き明かしてくださっている。テキスト作りにもたくさんのアイディアが盛り込まれ、楽しく学べるよう工夫されている。

 英会話は、自身から積極的に話しかけていかなければ上達はおぼつかないが、そのプレッシャーのために挫折してしまったのでは元も子もない。昨年度は、先生たちの工夫によってそれをうまく乗り越え、途中から来なくなってしまう例も少なくなった。先生たちのご努力にあらためて敬意を表したい。

 私も仲間に加えていただいてはや4年になる。「あっち」以外にももう少しましなことがいえるよう、駅前留学5年目に向けて頑張りたいと思っている。
(2010年3月30日)