いのちの鎖とイルカ漁

イメージ 1

[エッセイ 275]
いのちの鎖とイルカ漁

 米映画“The Cove”が、第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。日本語で入江という意味のこの映画は、和歌山県太地町のイルカ漁を隠し撮りし、あたかも動物を虐待しているかのように表現したものだという。地元では、町長が「映画は、科学的根拠に基づかない虚偽の事柄を事実であるかのように表現しており遺憾に思う」と表明するなど反発を強めている。
 
 太地町では、イルカを小さな入江に追い込む漁法によって、年間2,000頭ほどを捕獲しているそうだ。数百年の伝統をもつというこの漁は、その漁法はもとより捕獲頭数においても合法的なものだという。捕まえたイルカは、一部を水族館などに回し残りは食用にしているそうだ。

 1970年代に、“銀河鉄道999”という連続テレビアニメがヒットした。2220年代を想定したSFものである。主人公の少年・星野鉄郎と謎の美女・メ―テルが、銀河鉄道スリーナインと呼ばれる宇宙空間を走る列車に乗って旅に出る。

 彼らは、永遠の命が謳歌できる「機械の身体」が無料でもらえるという星を目指しているところである。旅の途中、この列車は廃墟となり死の世界と化した小さな星に立ち寄った。ここは、かつては地球と同じような生態系をもち、地球よりはるかに優れた文明をもつ世界であったという。

 この星に住む人たちはみな心やさしかった。人々は虫が鳥に食べられるのを見て可哀そうに思い、その虫たちをみな鉄製に変えてやった。虫は鳥に食べられることはなくなったが、鳥たちは餌に困りやがて絶滅してしまった。鳥に繁殖の手伝いをしてもらっていた植物も、やがて絶滅の道をたどっていく。ここに、食物連鎖は完全に崩壊し、命あるものすべてが絶滅していったという。

 動物は、他の生き物の命を食することによってのみ自身の命をつないでいくことができる。命をつなぐ食物連鎖は、自然界の微妙なバランスの上に成り立っている。もし、食物連鎖が崩れるようなことがあったら、生き物はすぐにも破滅の危機に直面する。

 最近の環境保護活動には、売名行為や政治取引の材料としか見えないものも少なくない。自分たちの価値観や伝統を正当化し、それを他に押しつけるような独善的な行為は、とても許されるものではない。“牛を殺すのは善だがクジラを食べるのは悪“といった、自分たちの文化にマッチしないものはすべて排除しようとする行為は、到底容認できるものではない。

 いま、わたしたちは地球上のいのちの鎖を護ることのできるぎりぎりのところに立たされている。正確な実態把握と適正なバランスを見極め、一切の思惑を排して果敢に施策を打つべきときである。
(2010年3月16日)