コンピューターウイルス

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[エッセイ 89](既発表 5年前の作品)
コンピューターウイルス

 「ウイルスバスターサーバーに最新版のプログラムがあります。アップデートを実行しますか?」。今朝、電子メールをチェックしようとしてパソコンを開いたら、画面中央にこんな表示が出てきた。あわただしい時間帯ではあるが、せっかくの申し出なので「はい」を選択した。アップデート、つまり新しいワクチンに入れ替える作業は2分弱であっという間に終わった。

 私の契約しているコンピューターウイルス防御用の、いわゆるワクチンは、「ウイルスバスター」という商品名である。世界中で、毎日数え切れないほどの新しいウイルスがばら撒かれているので、ワクチンは新種のウイルスに対抗できるよう常に新しいものに入れ替えておく必要がある。また、気づかないうちに侵入されていることもあるので、その定期的なチェックと侵入されていた場合の排除も行う必要がある。ウイルスバスターは、これらのことをインターネット回線を使って定期的にやってくれる。

 コンピューターウイルスは、大別すると、感染するものとしないものとに分けられる。感染とは、侵入したコンピューターを足場に、さらにその情報交換相手である他のコンピューターにも被害を広げていくことをいう。その感染のありさまが、本物のウイルスに似ているので、コンピューターウイルスと名づけられた。

 感染するウイルスに侵入された場合、その所有者は当然被害者となるが、同時に加害者にもなりうる。感染するかしないかはともかく、ウイルスは他人のコンピューターに勝手に入り込み、プログラムを壊したり、情報を消したり改変したりあるいは盗み出したりと悪徳のかぎりをつくす。

 被害額についての本格的な統計はないようだが、アメリカでのある調査によると、感染一回あたりの被害額は、企業の場合で平均2百万ドル、個人の場合で500ドルに上るという。予防のための費用、例えばワクチンの購入費用まで被害額とみると、全世界では一国の国家予算レベルにまで達するのではなかろうか。経済的な損失もさることながら、ウイルスは国の安全保障や企業の存立にとってもきわめて重大な脅威であり、個人に対してもまたしかりである。

 それにしても、何のためのウイルスだろう。単なるオタクか、ハイレベルな愉快犯なのか。もしそうなら、お説教でこと足りるのか、もっと心の闇の部分に踏み込むべきなのか。それが、企業や国家をまたいでの情報戦だったら対応策はあるのか。もし本物のテロだったら。ここまでくると、人種、宗教、南北問題など、個人のレベルをはるかに超えた異次元の世界に迷い込んでしまう。

 いま、私たちはIT化の恩恵を享受している。その恩恵が「陽」であるなら、せめてそれに匹敵する「陰」があることくらいは認識しておくべきである。
(2005年2月26日)