京都・東山山麓の紅葉

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[エッセイ 265](新作)
京都・東山山麓の紅葉

 清水の舞台から見下ろす紅葉は、てっぺんが白茶け、すでに盛りを過ぎているようにみえた。しかし、谷に下り木々を下から見上げたとき、その心配はまったく無用のものであることに気がついた。

 清水坂を登るときから修学旅行生の群れに囲まれ、舞台に上がってもその喧そうから逃れることはできなかった。しかし、ここからの京都市街の眺望はまた格別である。年末になると、日本漢字検定協会選定の「今年の漢字」が話題になるが、その発表場所もこの舞台である。

 清水寺のこの舞台は、本尊に舞楽を奉納するためのもので、本堂から崖に向かってせり出されている。139本の長大な柱によって支えられ、下からの高さは3階建てビルより高い13メートルもあるという。

 思い切って決断、実行することを「清水の舞台から飛び降りるつもりで・・」などというが、実際に飛び降りた人もたくさんいたそうだ。統計のある1694年から1864年の170年間に234人が飛び降りたそうだ。生存率は85パーセント、1872年に禁止令が出されて以降、飛び降りる人はほとんどなくなったという。

 この舞台の下はなだらかな谷になっており、いまが見ごろのカエデの林が広がっている。逆光に輝く朱色が、その場にたたずむ人たちの心を惹きつけて離さない。観客たちは、舞台の下から見上げてこそ、主役のパフォーマンスに感動を覚えることができるようだ。

 この日、私たちは名残の紅葉を求めて、東山山麓に連なる大寺院をハシゴして回った。西国三十三箇所霊場第16番札所であるこの清水寺のほか、京都5山の一つ臨済宗東福寺派大本山東福寺、そして全国すべての禅寺の頂点に立つ臨済宗南禅寺派大本山南禅寺の3カ所である。

 東福寺では、通天橋(つうてんきょう)の下に広がる幽玄なカエデの林を楽しんだ。南禅寺では、名物の湯豆腐こそ賞味できなかったが、広大な境内で紅葉を堪能することができた。

 京都の紅葉の名所といえばお寺の庭園、人の手で作られた手入れの行きとどいた人工の場所と相場が決まっている。紅葉名所の一覧を見ても、その大半が神社仏閣の類である。大自然に抱かれた、もっとスケールの大きな紅葉を楽しむことはできないのだろうか。

 ただ、京都には千年の歴史がある。京都の庭には借景という文化がある。人の手で作られ人によって管理されているとはいえ、最近の箱もの文化とは一味も二味も違う。名優の演技は、名脇役と舞台装置によっていっそう引き立てられる。歴史ある建造物と美しい借景は、究極の紅葉美を演出するにちがいない。
(2009年12月24日)