雪降り

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[エッセイ 3](既発表 7年前の作品)
雪降り

 5日前、新しい週が始まったばかりの日のことである。朝から雪がどんどん降り、そのまま積もった。首都圏は、いつものことながら雪に弱い。電車やバスはそれによってことごとく止まってしまう。思いもかけない事故が次々と起こり、交通渋滞に輪をかける。

 私は、この日は仕事の予定を入れていなかったので、そんな光景を自宅のテレビでぼんやりとながめていた。その時、友人から電話が入った。彼は、「明日、ゴルフができるだろうか」と切り出した。実は、高校のクラスメート7人と、翌日私のホームコースでゴルフを予定していた。

 ゴルフもまた雪に弱い。すぐゴルフ場と連絡をとって状況を聞き、友人数人と相談して延期を決めた。私は、ほかのみんなにも延期を伝え、代わりの日程を相談した。電話はかなり要領よく話したつもりであったが、終わってみると30分をゆうに超えていた。少しうんざりしてきたが、まだ変更後の段取りが残っていた。

 コーヒーを前に一息入れていると、町内会からの電話連絡が入った。なんと、すぐお向かいのご主人が前夜亡くなられたとのこと。そういえば、ここ半年ばかり体調を崩して入退院をくり返しておられた。だいぶ高齢なので心配はしていたがとうとうだめだったようだ。

 その方には、以前から大変お世話になっていたので無念さもひとしおである。早速伺ってみるとたいそう取り込んでいた。簡単にお悔やみを述べ、なにかお手伝いさせていただけることがあったら・・と言い残してひとまずおいとますることにした。

 その方のお通夜はその夜、葬儀は翌日の午後、いずれも市内の斎場で行われることになった。しかし、そこまでのアクセスは車しか方法がなかった。もし、雪が積もったままなら別の方法も考えなければならない。私はそのことをあらためて近所の人に相談してみることにした。

 雪は幸運にも夕方には止んだ。私は自分の車でその斎場まで行くことができた。駐車場で偶然出会ったお隣のご主人は、「実は、今日ゴルフに行く約束をしていたが、この雪で断念せざるをえませんでした」とこぼしていた。
 
 それにしても、雪はどうしてこうもみんなを振り回すのだろう。人それぞれの予定を台無しにし、場合によっては事故まで誘発してしまう。私は、亡くなられた方のご冥福を祈りながら、一方でこうした恨めしい気持ちを抑えるのに苦労した。ゴルフの代わりの日程は一週間後の同じ曜日と決めた。

 その夜、空はきれいに晴れ上がり星が瞬いていた。私は星達に手を合わせ、「次の火曜日は晴天に恵まれますように」とお祈りした。
(2002年12月14日)

2009年12月12日 追記
 上のエッセイは、この年の12月10日のことを題材に書いたものです。今日は最高気温が17度まで上がってぽかぽか陽気だったがこの日は大雪でした。