犬の臭い袋

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[エッセイ 257](新作)
犬の臭い袋

 わが家の愛犬の散歩は、朝は私が、夕方は家内が受け持つことになっている。椎間板ヘルニアの後遺症のため、いまも使い続けているオムツは、玄関を出たところで外してやることにしている。

 10日ばかり前の夕方、犬を連れ出そうとしていた家内が玄関先でなにか叫んでいる。出てみると、外したオムツに赤紫色の血のりのようなものがべっとりと付いていた。よく見ると、しっぽの斜め下あたりに直径2~3ミリほどの穴が開いておりそこから出血しているようであった。オムツをしているので気がつかなかったが、おできでもできてそれが破裂したようである。

 医師は、耳なれない「肛門嚢炎(こうもんのうえん)」という病名を告げ、すぐ治療にかかってくれた。お尻の周りの毛を切り落とし、傷口とその中をきれいに洗浄して薬剤を注入してくれた。抗生物質の飲み薬を出すので、それを朝晩飲ませ、4~5日おきにしばらく通院してくださいということであった。

 犬や猫には、肛門のすぐわきに肛門嚢という一対の小さな臭い袋がついているそうだ。その袋には、縄張りを主張するための、臭いの強い茶色の液が溜められているという。人間に飼われるようになった今では、そんなものは無用の長物でしかないそうだ。

 肛門嚢に溜められた液は、ふつうは排便のとき一緒に体外に排出される。しかし、分泌するための導管が詰まったり、絞り出す力が弱まったりしてくると、液が溜まりすぎ炎症を起こすことになるという。括約筋の働きのない小型犬や、筋力の弱くなった老犬にこの病気が多いのはそのためだという。

 一旦破裂してしまった肛門嚢炎は、慢性化しないよう徹底的に治療する必要があるという。重傷になると、手術によって肛門嚢そのものを切除しなければならないそうだ。もっとも、それがなくても何の不自由もないことから、あとくされがなくなる分かえって好都合といえなくもない。

 肛門嚢炎を予防するには、その溜まった液を月に一度くらい絞り出してやるといいそうだ。その臭い袋は、肛門の斜めすぐ下、時計の文字盤でいうと4時と8時の位置にあるそうだ。その両脇を、葡萄をつまむように指で内側に押してやると簡単に絞りだせるという。ただ、臭いが強いので、シャンプーのとき一緒にやってやるのがお勧めだそうだ。

 犬にこんな病気があるとは全く知らなかった。肛門嚢という器官の存在すら知らなかった。今回のことで、犬を飼うからにはそれなりの勉強が必要であることをあらためて思い知らされた。さいわい今回の場合は、あと2~3回も通院すれば、手術なしで完治するだろうとのご託宣をいただいている。
(2009年9月15日)