企業内夏祭り

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[エッセイ 27](既発表 6年前の作品)
企業内夏祭り

 お祭り会場は、事業所の中央を走る広い通路に設けられていた。細長い広場ともいえるその通路の両側には、34もの露店が並び客の入りを競っていた。会場の一番奥には特設ステージも設けられていた。人ごみをかき分けてそこまでたどりついたとき、ちょうど和太鼓の演奏が始まった。

 先週土曜日の夜、近所にあるE社の事業所で開かれた企業内夏祭りに参加した。もちろん、地域住民の一人としてである。普段あまりなじみのない事業所だけに多少遠慮がちに振舞っていたが、この和太鼓の演奏をきっかけに一気に祭りの雰囲気に溶け込むことができた。

 ステージでは、多彩なプログラムが展開された。同好の士によるバンド演奏、自称歌手達の歌やコーラス、もちろん和太鼓と日本舞踊も組み込まれている。そして最後に福引の抽選会があった。この日集まった人たちは数万人に上ると推測される。お祭りは、30発の打ち上げ花火で賑やかに幕を閉じた。

 このお祭りは、かつては従業員とその家族のためだけの閉ざされた催物であったが、ここ数年事業所の近隣の人にも開放されるようになった。

 数年前、この事業所で環境汚染問題が発覚した。ダイオキシンの混じった廃液や雨水を、数十年間引地川にたれ流しつづけていたのである。引治川は死の川と化し、河口の江ノ島周辺はもとより相模湾は広く汚染されてしまった。E社は、環境汚染の元凶として世間の厳しい指弾を浴びることになった。右翼団体までが、ゆすりの格好の相手として大音響でがなり立てた。
 
 この事業所は、近隣とのお付き合いについて一定の距離をおいてきた。しかし、その問題が発生して以来、少しずつではあるが地域社会との共生を図る努力を始めている。通勤道路の花壇の手入れや植え替え、生活道路の清掃といった日常的な地域活動から、夏祭りのように事業所そのものを地域住民に開放するといった思い切ったことも始めている。

 「企業城下町」という言葉があるくらい、企業と地域社会の間には、上下の関係はあっても対等の概念は存在しなかった。これからは、企業と住民は交流を通して相互に深く理解しあい、対等な関係を築いていく必要がある。

 どのような考えに基づいて、どのような活動をどれくらいの規模で進めているのか。日本の社会と、そして世界とどのような規模でどのように関わっているのか。これからどのような方向に進もうとしているのか。情報開示こそ相互理解の第一歩である。企業と地域住民は、可能な限り相互理解を深め、ともに手を携えて地域の発展に貢献する義務がある。

 夏祭りが、その小さな第一歩になることを期待したい。
(2003年8月11日)