定期健診

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[エッセイ 24](既発表 6年前の作品)
定期健診

 私の左腕の内側は、一週間前から青紫に変わったままである。血液検査のために採血した際、看護婦がちょっとしたミスで軽い内出血を起こしたためである。べつに痛くはないが、このシーズンは半袖で出かけることが多くちょっとばかり格好が悪い。

 先週土曜日、市主催の定期健康診断を受けた。市の主催とはいってもその費用を市が負担するだけで、実際の診断は市内の一般開業医に委託されたものである。私は、普段お世話になっている近所の内科クリニックにお願いした。以前、突発性の不整脈が出たことがあり、それ以来のいわば主治医としてのお付き合いである。

 診断項目は、身長、体重、心電図、血圧、脈拍、胸部レントゲン撮影、血液検査、検便、検尿、痰検査、眼底検査それに問診である。胃の検査がないのがいたって不満であるが、無料である以上あまり文句は言えない。主治医は、これらの検査データを詳細にチェックし、私の健康状態を入念に検討してくれた。しかし、これらの診断はしょせん簡便なものであり、このデータだけですべての状態を完全にチェックすることは不可能と思われる。

 こうした健診は、深刻な病気を早期に発見するというのが本来の目的であるはずだが、実際にはそれを予防するほうに比重がかかっている。例えば、このデータでは肝臓の機能がかなり悪化しているのでお酒は控えたほうがいいといった具合である。

 不幸にして本当にその病気にかかっているとしたら、とっくに気がついて入院していたはずである。深刻な病気を真剣にチェックしたいなら、人間ドックなど時間とお金をかけた本格的な健診を受けるべきである。定期健診は健康だから受けられるのである。健診は、その本来の意義よりもそれを定期的に受けられる幸運を祝福することに意味がある。

 定期健診はプラスの要素ばかりではない。健診中の医療事故がもとで思わぬ不幸に見舞われることがあるかもしれない。心配ないといわれていたのが、実は見落としだったため逆に手遅れになることだってありうる。とりわけ、X線による健康への悪影響が心配される。

 われわれは、定期健診による早期発見や事前の予防というメリットと、X線による危険性などのデメリットを比較して判断しなければならない。もし、もともと完全な健康体であった人が健診を受けたとしたら、かけなくてもよかった時間と費用を無駄にしたことになる。おまけに、天から与えられた寿命をむざむざ数年間も縮めたことになる。

 ナンセンスな自問自答はさておいて、近代医療を信じ今年も元気で定期健診が受けられたことを喜びとしたい。
(2003年7月19日)