水害

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[エッセイ 65](既発表 5年前の作品)
水害

 この13日から14日にかけて、新潟県中越地方と福島県会津地方の水害で大きな被害を出した。この2日間で、降雨量が500ミリにも達したところがあったという。被害が大きかったのは、中之島町、三条市見附市などである。刈谷田川や五十嵐川が決壊したことが、被害を決定的に大きくした。

 17日現在、死者12名、行方不明者4名となっている。死者すべてが70歳以上の高齢者というのがいっそうやりきれなさを感じさせる。水位が軒先にまで迫り、寝たきりの人がそのまま自宅で溺れ死んだという例もあったという。

 激しく逆巻く濁流は堤防を削り、町や田畑はあっという間に泥海と化した。あまりにも短時間の出来事であったため、避難が間に合わず自宅に取り残される人が多かった。ヘリコプターで救助された人は最初の2日間だけで451名に達した。いまも、9市町、1万2千世帯に避難勧告が出たままである。気象庁は、この豪雨に「平成十六年七月 新潟・福島豪雨」という名前を付けた。

 関東以西では梅雨が明けたというのに、なぜこの地方にだけ豪雨が集中したのだろう。夏の高気圧がだんだん強くなり、関東北部まで張り出してきた。一方、北の高気圧はどっかりと居座ったままである。そのため境界線上にある梅雨前線は、新潟県中部まで北上したところで動けない状態になってしまった。そこへ南から湿った空気がどんどん流れ込んでくる。分厚い雨雲が次々と発生し、激しい雨が降り続く。

 梅雨末期によく見られる集中豪雨であるが、例年なら前線が上がったり下がったりして広い範囲に雨を降らせるのが普通である。ところが今回は、南北の勢力が拮抗しているため前線は一箇所に停滞し、同じところに集中的に雨を降せることになってしまった。

 むかし、治山治水は政治の中心課題であったが、今も変わっていないことが実証された。避難勧告のタイミングについても、自治体によってその判断に大きな差が出たという。100に1回の○○に耐えられる設計になっていたが・・・などという言い訳をよく耳にする。しかしそれは統計的な確率の話であって、現実に泥に埋まり家財道具を全部失った当事者にはまったく通用しない。

 30年前に多摩川が決壊し、それを題材にした「岸辺のアルバム」というテレビドラマが話題を呼んだことがある。泥水とともに、一番大切な思い出まで流されてしまった被害者の心情はいかばかりであろうか。

 今回も、約2千名のボランティアが泥に埋まりながら活躍しているという。自衛隊ももちろんがんばっている。そうした光景を目にするにつけ、多少なりとも救われた気持ちになるのは私だけだろうか。被災者が元気を取り戻し、早期に復興を遂げられることを願ってやまない。
(2004年7月17日)