二羽の山鳩

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[エッセイ 247](新作)
二羽の山鳩

 一度営巣に失敗したあの山鳩たちが、いつの間にか舞い戻っていた。同じ梅の木の、同じ場所に巣をつくりはじめた。戻って間もなく、そのうちの一羽が巣に座った。
 
 それにしても、もう卵を産んだのだろうか。前回、抱卵中に落としてしまったばかりなのに、またすぐ生むことができるのだろうか。そうしている間も、もう一羽が小枝をせっせと運んでくる。巣の工事中にもう一羽が座っていてうまくいくのだろうか。

 数日が経ったころ、枝を運んでいた方の姿が見えなくなった。しかし、あとの一羽はいつ見てもじっと座ったままである。たまに、体の向きが変わっていることはあるが、それでも辛抱強く座っている。

 以来、様子を見に行くのが私の日課になった。今度こそ元気な雛が生まれ、ちゃんと育ってほしい。晴れの日も曇りの日も、そして土砂降りの日も鳩はちゃんと巣に座っている。夜は暗くて見ることはできないが、しっかりと卵を温めているはずだ。はたして、このまま体力を維持できるのだろうか。

 ある日、例によって巣を見上げたら鳩の姿が見えない。エサでも探しに行ったのかと思いつつ、ふと木の根元を見ると小さな卵の殻が転がっていた。また一個のようだった。誤って落としたのか、あるいはカラスやネコに襲われたのだろうか。巣をよく見ると、網の目がずいぶん荒い。メスがにわかに産気づき、巣が未完成のうちに産卵したため、その隙間から落ちたのかもしれない。

 山鳩は、キジバトと呼ぶ方が正しいようだ。その姿がキジのメスに似ているのでそう呼ぶようになったと考えられる。産卵は普通年一回、一度に二個生む。抱卵の期間は約二週間、昼間はオス、夜間はメスが交替で座るそうだ。雛が生まれると、18日間前後で巣立っていくという。

 わが家の山鳩は、一回に一個ずつ生んで二回とも抱卵に失敗した。前回は、メスの体内に卵を一個残したまま抱卵に踏み切り、それに失敗したのではなかろうか。そして今回、また一個だけ抱卵したところを見ると、今回は残りの一個だったのではないだろうか。

 当初つがいで営巣していたのに、途中から一羽だけになったので片割れはどこかへ逃げだしたのかと思っていた。無責任だと怒っていたが、どうやらあれは、二羽が昼夜で交代していたようだ。手の空いた一羽は、どこか遠くまでエサを探しに行っていたのであろう。

 今度こそはと期待していただけに、無残な結果が残念でならない。それにしても、あのつがいは元気にしているだろうか。
(2009年6月27日)