バラ

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[エッセイ 243](新作)
バラ

 ロンドンのど真ん中に二つの大きな公園がある。その一つ、リージェンツ・パークという公園のバラが見事だと聞いて出かけてみた。広い公園の中を、地図を見たり人に聞いたりしながらやっとの思いでたどり着いた。

 イギリスツアーの終盤、ロンドンで自由行動となったその日、最初に訪ねたのがこのスポットである。日本庭園風のコーナーまで設けられたクイーン・メアリー・ガーデンという美しいバラ園であった。4年前の5月下旬、まさにバラが満開の時期に当たっていた。

 バラといえば、アニメや宝塚歌劇で有名な「ベルサイユのばら」を連想する。たしかに、ヒロインの王妃マリー・アントワネットが、バラの花を手にしている肖像画を見かけたことはある。しかし、はたしてベルサイユ宮殿はバラの名所だったのだろうか。広い敷地なのでどこかにそのような庭園があるかもしれない。それでも、あの宮殿でバラが咲き乱れている光景を私は知らない。
 
 平素、身近な花や果物のことについて調べていると、バラ科に属する植物が多いのに驚かされる。サクラ、モモ、アンズ、アーモンド、ウメ、リンゴ、ナシ、ビワ、イチゴ、そしてもちろんバラも。私たちの身の回りにあるきれいな花やうまそうな果物は、ほとんどがバラ科に分類されている。
 
 バラ科とは、双子葉植物の離弁花類である。要するに、タネから芽が出てくるとき葉っぱが2枚対になっており、花は花びら同志がくっついていない植物のことをいうのだそうだ。こう定義されるバラ科の植物は、種で100を超え、属では3000以上の数に達するという。
 
 バラは、花が美しいばかりでなく香りも実に豊かである。花弁から精製されるローズオイルは香水やアロマセラピーに、花弁を蒸留して得られるローズウォーターはデザートなどの香りづけに、そして乾燥させた花弁は薬味やハーブティーなどに用いられる。
 
 バラの花言葉は、愛、恋、美、幸福、乙女、秘密、清新など男女にまつわるロマンチックなものが多い。しかしこれらはバラ全般のことで、花の色によって意味合いも少しずつ違ってくる。白やいわゆるバラ色あるいはピンクなどは前向きで肯定的なものが多いが、黄色や赤になると逆の意味をもつ場合もある。

 ところで、先人から伝えられてきた人生訓の中にも、バラにかかわるものがいくつかある。「バラ色の人生」「茨の道」あるいは「美しい花にはとげがある」などなど。人生とは茨の道を切り開いていくようなもの。そして、その先にはバラ色の人生が待っている。茨の道でも、美しい花に出会うことはできる。しかし、その花の陰には、必ずトゲが隠されていることを忘れてはならない。
(2009年5月30日)