お茶

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[エッセイ 240](新作)
お茶

 今日、5月2日は八十八夜。遊行寺に、節分の豆まきを見に行ったのはつい昨日のような気もするが、あれからもう88日も経っているのだ。

 霜の被害を免れた新茶は、このころ摘み取られるものが最も上等なのだそうだ。そして、この日お茶を飲むと長生きするとも伝えられている。このころを境に、霜の降りる心配はほとんどなくなるという。八十八夜とは、日本独自の雑節であるが、こうした季節の目安として設けられたものである。

 お茶の原産地は中国の雲南省だそうだ。現地ではお茶は食べるものだったが、漢人に伝わるとそれをだし汁にして飲むようになったという。唐の時代(618~907)になると、お茶を飲む習慣は文化にまで高められていった。茶葉は珍重され、唐の後期には政府の専売品として大きな財源になった。日本へは、栄西(1141~1215)が持ち帰ったというのが定説となっているが、空海(774~835)や最澄(766~822)がすでに持ち帰っていたという説もある。

 茶という字は、もとは草冠に余と書いていたそうだ。余という字には苦いという意味があるそうで、お茶の特性をいい表わすのにちょうどよかったのであろう。その余から、いつの間にか横棒が一本省かれるようになった。

 茶は、現地でもチャーとかテーなどと発音していたようだ。チャーは、漢字圏ではだいたいそれに近い音で伝わり、日本でもそういわれるようになった。一方テーも、teやteeあるいはteaとして世界中に広まっていったようだ。

 茶葉は、発酵方法によっておよそ6種類に分けられる。日本の緑茶は、全く発酵させていない不発酵茶である。少し発酵させた弱発酵茶は白茶、かなりの程度発酵させた半発酵茶は青茶、そして完全に発酵させた完全発酵茶は紅茶と呼ばれている。緑茶の工程を踏んでさらにコウジカビで発酵させたものを黒茶、白茶と同じ工程をたどりさらに軽く酸化発酵させたものを黄茶と呼んでいる。日本でも一般的になってきた烏龍茶は青茶の部類に入るという。

 全世界の年間生産量はおよそ360万トンで、中国とインドで50パーセント強を占めている。日本は9万トン強と世界シェアは2、5パーセント程度であるが、その中では静岡県と鹿児島県が突出して多い。

 お茶には、タンニン、ビタミンC、テアニンあるいはカフェインといった有効成分がたくさん含まれ、私たちの健康維持には不可欠の存在である。またお茶は、人の心に安らぎをもたらし人間関係に潤いを与える。喫茶という行為は茶道にまで高められ、政治の小道具に利用されることさえある。

 近年、コーヒーなどの飲みものも手軽に手に入るようになった。しかし、お茶は日本人の無二の親友として、これからも身近な存在であり続けるであろう。
(2009年5月2日)