バチカン

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[エッセイ 95](既発表 4年前の作品)
バチカン

 カトリック信者の頂点に立つ新しいローマ法王の決定は、サン・ピエトロ広場で待つ群集に白い煙によって知らされた。新法王は265代目、ベネディクト16世と名乗った。

 700年余り前のこと、法王の選出は枢機卿の互選ということになっていたが、なかなか決められず3年近くも空位になっていたことがある。それに業を煮やした民衆が、枢機卿たちを鍵の掛かった部屋に閉じ込め選出を迫った。その事件以来、外部との連絡を遮断してみんなで納得のいくまで投票を繰り返すコンクラーベのシステムが確立した。

 今回の舞台となったサン・ピエトロ寺院を訪れたのは、もう12年も前のことになる。私たちは、その壮大な建築物と荘厳な雰囲気、そしてミケランジェロの壁画と彫刻に圧倒された。サン・ピエトロ広場の右側にある建物にローマ法王の部屋はあった。なにか催物のあるときは、その窓から顔を出して手を振られるとのこと。ヨハネパウロ2世がまだお元気なころのことである。

 ところで、いままで「ローマ法王」や「バチカン」といった言葉になにげなく接してきたが、今回のことで、それらについてあまり理解していないことに気がついた。わが国外務省の説明によると、バチカンとは、法王を国家元首とする独立国家としての「バチカン市国」と、法王を首長として世界のカトリック教会を支配する「法王聖座」の、聖俗両面の総称なのだそうだ。

 ローマ市内にある世界一小さいこの国は、それでも立派な独立国である。国名をバチカン市国という。面積は0、44平方キロメートルで日比谷公園の3倍ほど。人口約850人、そのほとんどが聖職者である。

 元首はローマ法王、政治機関はバチカン市国委員会が統括し、市国政庁が執行する。法王聖座とは、11億人近い信者を擁するカトリック教会の最高機関であり、ローマ法王およびローマ法王庁(政府に相当)を総称した概念である。首長はもちろんローマ法王である。法王の公務執行中央機関であるローマ法王庁が政府に相当する。世界中の司教の代表が集まる司教会議が議会に準じた機能を果たしている。

 それにしても、バチカンは、大方の日本人にとって観光の対象ではあっても自分自身にとっては遠い存在でしかない。宗教や国についての概念、あるいは日常生活とのかかわり方があまりにも違いすぎるからかもしれない。その遠い世界にあって、どうしても「根比べ」と書きたくなるコンクラーベは、私たちにとっても理想的な意思決定方法ではなかろうか。

 時間と労力がかかるにしても、納得性とそれに続く実行段階を考えれば、これにすぐる民主的で合理的なシステムは見当たらない。反日の中国人民と嫌中の日本国民、ここでひとつコンクラーベでもやってみてはどうだろう。
(2005年4月24日)