高麗青磁

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[エッセイ 93](既発表 4年前の作品)
高麗青磁

 飛行機嫌いの友人が、初めての海外旅行として韓国に出かけることになった。なにかアドバイスしたいと思い、6年前に訪韓したときの旅日記をコピーして送った。いま読みかえしてみて、青磁の花瓶を買った時の記憶が一番印象的な出来事としてよみがえってきた。

 ソウル滞在3日目、夕方になって仁寺洞(インサドン)という骨董屋街に出かけた。今回の旅では、記念の目玉として青磁の花瓶を買うつもりでいたからだ。仁寺洞は、車がやっとすれちがえる程度の車道と2メートルあまりの歩道のついた一本道であった。老人が集う街をイメージしていたが、通りには若者があふれていた。歩くのがやっとである。なぜこんな所に若者が押しかけるのだろう。どうやら、デートスポットの穴場でもあるらしい。

 ひととおり見てまわった中では、「古堂」という店が一番専門店らしく見えた。店内では、伝統的なものよりその店のオリジナル品の方が気に入った。柏市の、そごうデパートで開かれた展示会で、75万円で売っていた逸品と同じものだという。この店の値札には6万円がついていた。半値を目標に値切りにねぎったが、結局4万3千円で手を打った。

 高麗青磁の技術は、中国の浙江省にその源を発する。9世紀から10世紀にかけて高麗に渡り、そこで独自の進化を遂げたという。翡色といわれる神秘的な青と、象嵌に代表される装飾技法がその大きな特徴である。

 買い求めたその花瓶は、高さが30センチ弱、口が広くシルエットはかなり現代風である。翡色の地肌に白く浮き出た伝統の唐草模様、その上に黒っぽい赤の牡丹と濃緑色の葡萄の枝葉がアクセントとして配されている。その場で見せられた「美術家名鑑」という日本の本には、それと瓜二つの花瓶の写真と古堂・趙斗彦作「青磁象嵌唐草紋陽葡萄壺」という説明がついていた。しかし、いま手元にある現品は、象嵌技法などみあたらず、簡易技法による自家製のコピー商品と思われる。

 テレビ番組に、「開運なんでも鑑定団」というのがある。骨董的な価値があると思われる自慢の品を持ち込み、鑑定してもらう番組である。本物も、偽物もある。何百万円という高価なものもあれば、ただ同然のものも混じっている。私自身には骨董の趣味も収集癖もないが、その場の意外性が面白くてよく見ている。あのときの青磁は大いに気に入り、買いたかったから買っただけである。もし、骨董的な目的なら、たとえ1万円でも何も買わないのが賢明である。

 わが家の床の間に嫁入りした青磁の花瓶は、中国からやってきた掛軸などともに居心地よさそうに仲良く居座っている。私もそれらの存在に満足し、飽きることなく彼等との対話を楽しんでいる。
(2005年4月9日)