シクラメン

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[エッセイ 229](新作)
シクラメン

 いつのころからか、12月も半ばになると、シクラメンの鉢植えを買うのがわが家の恒例行事になった。どんな色にするか、買うときになっていつも迷ってしまうが、結局は真っ赤な色に落ち着いている。別名、「篝火花(かがりびばな)」ともいわれ、その深い紅色はわが家のリビングルームにもよく似合う。

 もう30年以上も前になるだろうか、あるとき取引先の部長さんを訪ねると、その人の机の上にリボンのついた立派なシクラメンの鉢植えが飾られていた。行きつけのクラブのママから、お歳暮に贈られたのだと誇らしげに話していた。私が、シクラメンを間近に見たのはこのときが最初である。

 シクラメンの原産地は、地中海沿岸のトルコからイスラエルのあたりだそうだ。それがドイツに渡るとがぜん注目されるようになり、品種改良も大きく前進したという。日本に入ってきたのは明治の後半であるが、庶民に広く親しまれるようになったのは「シクラメンのかほり」がヒットしたころからである。

 シクラメンサクラソウの仲間である。本来、香りはほとんどないが、例の歌がはやりだしたことからそのニーズが高まり、香りの高い品種も開発されたという。この花は、種子からも球根からも芽を出すが、球根からの方がうまく育つようだ。しかし、その球根は茎が肥大化したもので分球はしないという。

 昨年も、枯れてしまった鉢を軒下に放置しておいたら、秋にはその球根からたくさんの芽が出てきた。おまけに、鉢の周辺に散らばった種子からも、小さな芽がたくさん顔を出している。その鉢植えは、葉っぱも十分茂ってきたので、来月あたりから咲きはじめるのではないかと期待している。

 一般に、シクラメンは15度から20度が適温といわれている。陽光は欠かせないが、さすがに真夏の直射日光には弱いという。雨に当てない方がいいということなので、水やりも葉っぱにかからないよう注意する必要がある。

 最初のころ、せっかく買ってきたシクラメンが1ヵ月と持たなかった。そのうち、この花は暖房に弱いということを知った。以来、鉢植えは玄関に置き、朝になると外に出してやるのが日課になった。これで、もう少し日光浴をうまくさせられれば、もっと鮮やかな状態で初夏まで楽しむことができるはずである。いつもの花屋の主人は、「そんなに長持ちさせられたのでは商売になりません。もう少し粗末に扱ってください」などとぼやいてみせる。

 シクラメン花言葉には、恥ずかしがりや、内気、遠慮、など奥ゆかしいものが多い。その一方、嫉妬心、猜疑心といったあまり好ましくないものもある。おまけに、そのゴロが「死」や「苦」に通じることから病気見舞いには向かないともいわれており、手放しでは楽しめそうにない花のようである。
(2009年1月11日)