北京五輪

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[エッセイ 217](新作)
北京五輪

 「ヨッシ、ヨッシ・・ヨッシャ―!」。最後の瞬間、宇津木元監督は解説者席でこう叫んだ。彼女は、解説者というより一人の日本人になっていた。
 
 1回表、3者三振に終わったとき、とても歯が立ちそうにないと思った。ところが、3回に内野安打で先取点を奪った。4回には、山田のソロホームランで2点差に突き放した。しかし、その裏1点を返され1点差に迫られた。ここまでが精いっぱい、いずれ逆転されるだろうと思っていた。
 
 ところが、最終の7回表に、相手の守備の乱れに乗じてまた1点をもぎ取った。ひょっとしたらいけるかもしれない。しかし、7回裏、2アウトになってもまだ不安は消えなかった。次のバッターが打った球は、ゴロとなって3塁を襲った。捕った・ヨッシ、投げた・ヨッシ、捕った・ヨッシャ―・・。
 
 五輪のソフトボール勝戦で、日本は米国を破りついに悲願の金メダルを手にした。3連投のエース上野がすべてといっても過言ではないが、やはりチームワークと彼女たちの執念が金色のメダルを手繰り寄せたのであろう。

 「それに引き替え、情けないのは・・・」。今回の北京五輪で、このように形容される日本の選手やチームが目についた。メダルは当然と目されていた連中が枕を並べて討ち死にしていった。プロスポーツの双璧である野球とサッカーも、また例外ではなかった。参加することに意義があるとはいってみても、ただうつろに響くだけである。

 204の国と地域が参加して開かれた北京オリンピックは、名実ともに史上最大の祭典となった。素晴らしい施設、見事な運営、整然とした警備、華やかな演出、そして中国選手のずば抜けた活躍。どれ一つとっても傑出した出来栄えであった。これがオリンピック標準になったら、これからの開催国は大いに苦労するだろうというのが大方の見方である。

 しかし、あの豪勢な開会式の場面から、子供のころ見た金持ちの豪華な結婚式を思い出した。そんなことから、自分なりに五輪を総括してみた。新聞から露出頻度の高いキーワードをひろってみると、国家、威信、警備、愛国心、人権、民族、口パク、偽装、環境、抑圧、規制、禁止、不透明、閉鎖性、・・と、なぜかネガティブなものばかりがあがってきた。おまけに、中国が金メダルを51個も取ったと聞くと、かつてのソ連東ドイツを連想してしまった。

 発展途上国から一流の先進国へと、最短で脱皮しようとすればこうしたやり方が望ましいのかもしれない。また、中国固有のやむおえない事情もあるかもしれない。しかし、平和の祭典のはずが、人垣に守られた聖火リレーや百万人超の警備陣とフェンスに囲まれた競技ではあまりにも寂しすぎる。
(2008年8月25日)