動物病院繁盛記

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[エッセイ 212](新作)
動物病院繁盛記
 
 フィラリア症あるいは犬糸状虫症とよばれる犬にとってはきわめて恐ろしい感染症がある。フィラリアとよばれる寄生虫の感染によって発症する。フィラリアは蚊が媒介する。犬の体内に入ったフィラリアは、感染糸虫として血管の中で脱皮を繰り返しながら最終的に肺動脈に寄生する。
 
 このため、蚊の活動する5月から11月の間、月に1回犬に予防薬を与える。ただし、この薬の投与はフィラリアに感染していないことが前提である。そのため、事前の血液検査でそれを確かめる。いつもの動物病院に予約の電話を入れたところ、3日後の午後4時半なら空きがあるということであった。

 待合室には、他に12人が待っていた。もちろんペットを連れてのことである。フィラリアの検査のときには血液を採取するが、その血液を健康全般のチェックにも利用する。血糖値や総コレステロールなど14項目、私たちが受ける項目とほとんど同じである。さいわいわが愛犬には基準値をはみ出した数値はなく、フィラリアにも感染していなかった。
 
 それにしても、この動物病院は異常なほどの混みかたである。医師が4人、看護士が4人もいるのに、さばききれないほど繁盛している。連れてこられた動物たちの内訳は、犬が40パーセント弱、兎30パーセント強、猫20パーセント強、残りが亀や小鳥などではないかと推測される。
 
 8年前、初めて訪れたときはもっと静かであった。奥さんが院長、旦那さんが副院長、それに女性の看護士が2人ついていた。親切で料金も格段に安かった。以前、猫を飼っているとき別の病院で風邪の治療をしてもらったら10万円近くかかった。それと比べると、料金に限らずすべてが違いすぎた。

 動物病院は、近所の徒歩圏内だけでも5軒はある。市内全域では45軒前後、県内には650軒、そして全国には6300軒くらいあるとみられる。都会では人口1万人に1軒、全国平均でも人口2万人に1軒くらいの割合で存在していることになる。混みあう病院、閑古鳥の鳴く施設、繁盛の様もいろいろである。

 核家族化や少子高齢化がすすんだため、新たな伴侶が必要になったのだろうか。ストレスで傷ついた心を癒してくれる何かが求められているのだろうか。ペットは多くの家庭で可愛がられるようになった。それも、犬や猫だけではない。なかには、ゲテモノの類まで含まれていると聞く。その一方、鳥インフルとまではいかないが、ペットにからむ感染症もいよいよ身近になってきている。

 ペットの人間社会へのかかわり方、ペットと人間の保健衛生のあり方、ペットの医療体制のあり方。いまや、ペット抜きの社会が考えられないとするなら、こうした課題に正面から取り組む時期にきているのではなかろうか。
(2008年6月23日)