旭山動物園

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[エッセイ 210](新作)
旭山動物園
 
 北海道ツアーに出発する3日前、川崎に住む孫娘から絵はがきが届いた。絵柄は、透明の円柱の水槽を泳いでいるアザラシの写真であった。「ヘー、あの子もゴールデンウィーク旭山動物園に行ったのだ!」。

 「北海道まで行って、わざわざ動物園に行くこともないだろう。そんな時間があったら、美瑛や富良野あたりでゆっくりしたい」。そう思ってはいたが、孫も行ったとなれば、話を合わせる意味からもしっかり見てくる必要がある。かくして、北海道ツアー3日目は早々に旭山動物園に立ち寄ることになった。

 なるほど、例のアザラシは面白かった。建物の屋上部分が池になっており、地下にも池があるようだ。上下は、室内の中央にある透明の大きな円柱で結ばれている。アザラシは、その円柱を上下に行ったり来たりする。そのつど、室内にはどよめきがおこる。彼らは、上下に泳ぐのが大好きなのだそうだ。
 
 ホッキョクグマやペンギンのコーナーも同じような仕掛けになっていた。ただ、こちらの動物たちはなかなか気まぐれである。とくにシロクマのダイビングは、めったにお目にかかることができない。おかげで見物人が滞留し、ブースの外は長蛇の列が途切れることはなかった。
 
 こうしたやりかたを「行動展示」というそうだ。その試みが当り、一時閉園の直前まで追い詰められた旭山動物園が、いまでは全国第2位の入場者数を誇るまでになった。この成功物語は、2005年11月15日放送のNHK「プロジェクトX・挑戦者たち・旭山動物園・ペンギン翔ぶ」をはじめ、ビジネス再生モデルとして民放などでも再三取りあげられている。
 
 2005年の動物園入場者ランキングは、1位:東京・上野動物園339万人(首都圏4都県人口比9、9%)、2位:旭川旭山動物園207万人(北海道人口比36、7%)、3位:名古屋・東山動物園165万人(中部4県人口比11、0%)、そして4位:大阪・天王寺動物園141万人(近畿5府県人口比7、2%)となっている。
 
 旭山の入場者は、翌年には304万人にまで激増し、北海道人口に対する比率は53、9%まで上がった。このことは、ディズニーランド・シー(入場者2477万人、首都圏人口比72、4%)や沖縄・美ら海水族館(入場者243万人、沖縄県人口比178、8%)と同じように、域外に大きく依存していることを意味する。

 旭山動物園は、来場者の目線に立った“行動展示”が効を奏し、評判が評判を呼ぶかたちで観光ルートにも乗ることができた。しかし、美ら海水族館もそうだが、彼らの弱点は入場者の大半を観光バスに依存していることである。

 地域に愛される動物のテーマパークとして、自らの意志で足を運ぶ個人客をどこまで増やせるかがこれからの大きな課題である。
(2008年6月7日)

写真 上:旭山動物園ゴマフアザラシ
    下:美瑛