新世代DVD

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[エッセイ 199](新作)
新世代DVD
 
 ミスターVHSことビクターの元副社長・高野鎮雄氏は、NHKのプロジェクトXにも取りあげられた。「窓際族が世界規格を作った」~VHS執念の逆転劇~と題し、2000年4月に放送された。高野氏の活躍の舞台・同社横浜工場を、故人となった氏の葬列が巡回するシーンは、8年経ったいまも記憶に新しい。

 ビクターは、このビデオの規格争いで勝者となったが、次のビデオディスクではパイオニアのLDに、オーディオディスクではソニー・フィリップス連合のCDに負けた。覇者のソニー・フィリップス連合は、DVDではSD方式の東芝に敗れ、その東芝は新世代DVD争いでソニーに敗退した。

 2月19日、東芝は新世代DVDの規格争いでHD-DVD陣営に勝ち目はなくなったとして、この事業から撤退することを発表した。3月末をもって、関連するすべての事業を終息させるという。これにより、新世代DVDはソニー陣営のブルーレイ・ディスク(BD)方式に一本化されることになった。
 
 新世代DVDとは、DVDの次の世代を担う光ディスクシステムの総称である。デジタルハイビジョン放送が増え、大画面薄型テレビの普及がすすめば、それに対応可能な大容量の収録・保存・再生のシステムのニーズが高まる。ハイビジョン対応は、映像ソフト業界などからの期待も大きくなっている。

 この新しいDVDは発展途上にあり、東芝陣営のHD-DVD方式とソニー陣営のブルーレイ方式が激しい主導権争いを演じてきた。HD-DVDは現行DVDとの汎用性とコスト面に優れているが、容量をはじめ機能面においてはブルーレイが優位にあるといわれている。

 今回も、世界中の機器メーカーや映像ソフト企業を二つのグループに割っての争いとなった。この勝負に負けた陣営は、名実ともに大きなダメージをこうむる。そのグループのユーザーも、将来にわたって大きな不利益を受けることになる。ケリがつくまで、市場の混乱と停滞が続くのは当然の成行きである。

 今回の決着によって、ユーザーは安心して製品を購入できる。新世代DVDの普及にも大きな弾みがつくはずである。映像ソフト業界も、ソフトの市場拡大に専念することができる。HD-DVD陣営の盟主東芝も、ダメージを最小限に押え、事業の選択と集中を加速させることができるという。

 ソニーは、ビデオで14年間も自社の規格にこだわり、市場に無用の混乱を強いた。その苦い経験が生かされたのか、現行DVDは協調によって機器発売前に規格の統一がなされたという。今回は決戦となったが、劣勢の東芝は機器発売から2年弱で撤退を決めた。「撤退の早めの決断は、次の大勝利への道を切り拓く」東芝経営トップの、メリハリのきいた勇気ある決断を高く評価したい。
(2008年3月1日)