こんぴらさん

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[エッセイ 196](新作)
こんぴらさん
 
 石段が、天に向かって一直線に延びている。本宮までは785段、奥社までなら1368段もあるという。JR在来線の、高架ホームまでの階段に換算すると、奥社まで行くにはその40倍を上がらなければならない。四国一周の旅最終日は、こんぴらさんの長いながい石段のぼりに挑戦した。

 「こんぴら船々 追風に帆かけて シュラシュシュシュ まわれば四国は 讃州那珂の郡 象頭山金毘羅大権現 一度まわれば」ならいいが、「こんぴら船々 お池にはまってさあ大変・・」と歌うとドジョウが出てくることになりますよ。

 ガイドから、こんなたわいない冗談を聞かされているうちに、いつの間にか旭社という立派な建物にたどり着いていた。清水の次郎長の代理としてお参りした森の石松は、ここが本宮と勘違いしUターンしてしまったという。もしちゃんとお参りしていたら、帰りの途中、いまの浜松市都田で都鳥(本当は都田)の吉兵衛にだまし討ちにされることもなかったかもしれない。

 ここで626段。一直線に上がっていくというのは私の勝手な想像で、実際にはいくつも踊り場や平坦な参道があり、休みながらのぼることができた。さらには、ユーモア溢れるガイドの説明を聞きながらのウォーキングだったので、いつの間にか上がっていたというのが実感である。

 あと159段、本宮はもうすぐそこだ。しかし、そこから先の石段はまさに一直線に天に向かって延びていた。傾斜は急で踊り場もなかった。胸突き八町とはよくいったものである。本宮は、さすがに荘厳な雰囲気を醸し出していた。ここからの、讃岐平野の眺望もまた見事であった。本宮でしか買えないという黄色のお守りをいただいて、奥社は省略させてもらうことにした。

 こんぴらさんは、象頭山の中腹に大物主神と嵩徳天皇をお祀りする神社で、海の守護神として広く信仰を集めている。一生に一度はお参りしたいところとして、江戸時代から全国に知れ渡った人気の高いスポットである。

 この「こんぴらさん」、いろいろな漢字が当てられているのにあらためて驚いた。このたびお参りしたのは「金刀比羅宮」、明治元年(1868年)の神仏分離令までは「金毘羅大権現」と呼ばれていた。その門前にある日本最古、国の重要文化財にも指定されている芝居小屋は「金毘羅大芝居(金丸座)」といわれている。そして、ここの住所は香川県仲多度郡琴平町」である。

 それにしても、お昼に食べたウドンはうまかった。ごく普通の食堂なのに、観光地にある一見の客相手の店なのに、さすがは弘法大師空海ゆかりのウドンの本場だけのことはある。785段の石段をのぼりきったという達成感とともに、讃岐ウドンのうまさにも大いに満足することができた。
(2008年1月17日)

写真は、金刀比羅宮 本宮