サツマイモ

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[エッセイ 189](新作)
サツマイモ
 
 100グラムあたり税込み98円、1個平均300円少々。近所のスーパーに並べられているナルト金時の値段である。出されれば食べるし、食べてみればうまい。しかし、こんな高い値段で買ってまで食べる気にはなれない。サツマイモ世代の私は、いまだにこの金額になじめない。
 
 終戦とともに、小学校の運動場はイモ畑に変わった。みかん畑も、木は切られサツマイモが植えられた。少しでも空地らしいところがあれば、ことごとくイモ畑にされてしまった。サツマイモは、終戦後の食糧不足を補うきわめて重要な代用食であった。
 
 朝食は、サツマイモ入りの茶粥が主流であった。昼食や夕食でも、イモはしばしば重要な脇役を担わされた。おやつも、大抵は蒸かしイモであった。たまに手が空いていると、母はカンコロ団子をつくってくれた。

 カンコロとは、サツマイモをスライスして乾燥させ粉にしたものである。それを水で練って蒸かすと、黒褐色の団子ができた。中には輪切りの生イモが入っており、蒸かしあがると黄色いアンコになった。
 
 サツマイモの原産地は南アメリカの熱帯地方である。それが、コロンブスによってヨーロッパに持ち込まれ、さらに東南アジアを経て中国で栽培されるようになった。琉球に伝わったのは1604年、薩摩に持ち込まれたのは1705年といわれている。全国に普及させたのは八代将軍・徳川吉宗といわれている。
 
 焼き芋屋のキャッチフレーズに「九里(栗)四里(より)うまい十三里」というのがある。これは、単に「9+4≦13」の語呂合わせだけではない。サツマイモの、全国普及の拠点となった川越が、江戸から13里の距離にあったことにも由来するそうだ。
 
 サツマイモはアサガオの仲間である。春、畑の隅に苗床を作り、種芋を埋める。種芋からは15~30本の芽が出てくる。それが30~40センチに伸びたところで、切り取って畑の畝に挿しこむ。痩せた土地でもよく育つので、栽培は素人でも比較的簡単である。ツルが伸び、葉が繁ってくると、根の根もとが肥大化して塊根と呼ばれる芋になる。収穫したイモは地下のイモグラに保管する。

 サツマイモは、焼いたり蒸したりのちょっとした手を加えれば、大変おいしく食べられる。摂氏60度くらいで長時間熱を加えれば、デンプンが糖化してかん味が増すともいわれている。焼き芋や蒸かし芋などはその理に叶った調理法である。その一方、健康食品や焼酎など加工食品の材料としても用途は広い。

 最近、石油の代替燃料として穀類が注目されているが、サツマイモがその代用食材として、あるいは燃料そのものとして活躍するときがくるかもしれない。
(2007年11月18日)